少し前…イゾルデに言ったんだ
ボクについてなにか思っていることがあるなら
はっきり言って欲しいって
うん
それでイゾルデはなんて？
「そろそろ勇気を出してもいいのではなくて？
差し伸べられた手を取ってもいい頃でしょう」
見抜かれてたんだよね、結局
ボクが臆病で中途半端なことをさ
- そのとおりだな
- 違う
臆病で中途半端か
たしかにそのとおりだな
他人と関わり合いになりたくないのかと思えば
進んで支援活動を行ったりしてるし
…キミ、なかなかいい性格してるよね
お前は臆病でも中途半端でもない
優しいんだ。優しすぎるんだよ
イゾルデみたいなこと言うね、キミ
正直さ。ボクだって
素直になれたら楽だろうなって思うことはあるよ
え？
なんでもない
ただのひとりごとだよ
…教えてほしいんだ
え？
誰かの手を取るってことは
その人と信じあうってことでしょ？
信じた人に裏切られたときって
どうすればいいの？
ボクを信じてくれた人の気持ちに
応えられなかったときはどうすれば？
わからないなら
手なんか取らないほうがいいよね
それすれば、誰も傷を負わずに済むもの
トリスタン…
昔、お前の身に起こったこと
よければ聞かせてくれないか？
イゾルデからなにか聞いたの？
まったく…
ボク、コーンウォールの近くにあった
小さな国の王族の生まれなんだ
その国には世にも珍しい宝が
隠されているというウワサがあってね
ボクはそんなのマユツバだと思ってたけど
信じたバカな連中もいた
ボクの親族もそのひとりだった
え…？
ボクはバカな連中と
お宝を狙う盗賊とのいざこざに巻き込まれた
それで、逃げようとしたときに
親族のひとりが盗賊に囲まれているのが見えてさ
助けなきゃ
一緒に逃げなきゃと手を差し伸べたら
その手を払われて、捕まえられた
親族が盗賊に囲まれて
危険な目にあわされそうだと勘違いしたんだよね
実際はその親族が盗賊と内通して
ボクをさらおうとしていたのにさ
あのときのあいつの醜悪な顔は
今も脳裏から消えないよ
- 大変だったな
- なんて奴だ
その…月並みなことしか言えないけど
大変だったな
月並みな答えだけど、大変だったよ
人間の醜さを
まざまざと見せつけられた
なんて奴だ！
身内を売るだなんて…！
まあ、人間誰しも欲に駆られたら
自分のことしか頭になくなるってことだね
それが知れただけでもいい勉強になったよ
トリスタン…
身近な人間に裏切られるなんて
想像もしてなかったよ
あの頃のボクはまだ純真無垢だったからね
だから怖くなってしまったわけか
人を信じることが
いまだにあの事件のことを
引きずってるってわけでもないよ
もう昔のことだし
そういうことも起こりうるって理解してる
だけど、じゃあ簡単に他人を信じたり
頼ったりできるかって言われたら、答えはノー
知らない人間は警戒してしかるべきだし
見知ったあとも必要以上に信じることはできない
ボクが信じられるのは
イゾルデただひとりさ
だけどお前は
誰かのためを思っての行動をし続けてる
それは誰かを信じてるとか
信じたいという思いからの行動じゃないのか？
…そうだね
そこが中途半端で、矛盾してるよね
トリスタン…
手を差し伸ばしても払われるなら
差し伸ばす前になにかできないだろうか
そう考えたんだけどさ
心が拒むんだよ
だったら俺を…！
ストップ
さっき言ったでしょ？
「簡単に他人を信じたり
頼ったりできるかって言われたら、答えはノー」
今のボクにはまだ無理だよ
…ボクの話はここまで
キミといると、どうにも調子が狂うね
話すつもりのないことまで話しちゃったよ
気分転換でもして帰ろうかな
じゃね