うーん、風が気持ちいいな！
…お、あそこにイチャついてる生徒たちが！
あれはいわゆる壁ドンってやつか！？
いいなぁ、青春って感じだ！！
あんた、相変わらずだな…
そんなに好きか？青春ってやつ
ああ、好きだとも！
というより
俺が俺であるために
どういう意味だ？
…ひとつ、昔話をしてやろう
俺がまだ王様でもなんでもなかった頃の話だ
ログレスの片田舎にある孤児院で
俺は毎日無邪気に遊んでいた
晴れた日には鬼ごっこをして
雨が降れば屋根の下でみんなと一緒に本を読んだ
孤児院の掃除当番をサボっては
義兄さんに追いかけまわされたり
気になる女の子にイタズラをして泣かせて
先生にゲンコツをくらったこともある
それからおやつのホットドッグを並んで食べて
どんな大人になるかと、夢を語り合ったりもした
- いい思い出だな
- 今とあまり変わらないな
- 気になる女の子ってもしかして…
いい思い出だな
ああ。大切な思い出だ
孤児院で育った王などと
俺を揶揄する者もいるが
あの頃がなければきっと
俺はもっと早くに潰れていたさ
それか…
もっと王様らしくなっていたかもな
今とあまり変わらないな
ケイ卿に追い回されたりとか
ハハハ！確かにな
…って、待て
今の俺はマーリンを泣かせたりなど――
…まったくしてない、というわけでもないが…
ていうか…
気になる女の子ってマーリンさんだったのか
ぐ…
気になる女の子ってもしかして…
おっと！その先は言わぬが花というやつだ！
今度本人に確認してみようかな
ぜっっっったいやめてくれ！！
…今思えば
あれが俺の青春だったんだろうな
もう二度と戻ることのない日々
けれど、どれも大切な思い出だ
それが胸にあるかぎり、きっと戦っていける
どうしようもなく辛いことがあっても
道を踏み外しそうになったときも
きっと…その思い出が支えてくれる
それが青春だと俺は思う
だからあんたは
生徒たちの青春にこだわるんだな
ああ。俺は本来戦わなくていい若者に
戦うことを強いている
だからせめて学園にいる短いあいだだけでも
最高の思い出を作ってほしい
俺の勝手な押し付けだ
そうかもな
けどその押し付けのおかげで
青春を謳歌できた生徒はきっとたくさんいる
俺みたいに
ノワール…
きっとこの思い出は俺の力になる
そうだろ？
…アーサー？
…いや
そうだな
思い出はきっと、お前の力になるよ
…さて。そろそろ戻るか！
あんまりサボっていると
義兄さんの血管が切れてしまうからな