結局、取り合ってもらえなかったな
でも、俺もこの事件は
バルバロイによるものじゃないと思う
それはどうして？
- 郵便配達人の記憶がある
- 遺体の損傷具合が気になった
- なんとなく
バルバロイに喰われたなら
俺たちは彼のことを忘れているはずだ
バルバロイに喰われてしまった者は
家族にすらその存在を忘れられる
遺族が遺体を引き取りにくることはないわ
だから、この事件は人間の手によるものよ
遺体の損傷が
バルバロイによるものとは思えなかった
それは間違いではないけれど
あなたは大事なことを見落としているわ
もしもバルバロイに喰われたのなら
なぜわたしたちは彼のことを覚えているの？
あっ、そうか…
えーっと、その…探偵としてのカン、かな？
ノワール
そのカンは間違っていないけれど
これはカンも推理も必要なく
わたしたちならわかって当然のことなの
バルバロイに喰われてしまった者は
周囲からその存在を忘れられる
わたしたちは彼のことを覚えている
つまり、彼はバルバロイに喰われたのではない
人間の手によるものだとすると
血の蒐集家の仕業なんだろうか？
郵便配達人を殺害し
バルバロイによる被害にしようとしているのは
あの料理人を名乗った男であることに
間違いはないと思う
でも、あの男は血の蒐集家ではない
どうしてそう思うんだ？
すべてが浅はかで稚拙なのよ
あの男が本当に血の蒐集家なのであれば
目立つ場所に手がかりを残すはずがないし
目くらましのために
関係のない人間を殺害したりなどしない
ど、どうしたクレア？
そんなヤツにおじいちゃんが
やられるわけないのよ
わたしのおじいちゃんは
海の向こうで探偵をやっていたの
どんな難事件も瞬く間に解決してしまうと評判で
依頼人が途切れることはなかったわ
おじいちゃんはわたしの自慢で…
わたしが探偵に憧れることになったきっかけ
おじいちゃんは数年にわたって
血の蒐集家を調べていたわ。そして
「記憶を奪う魔物と
血の蒐集家とは関係性がある」
わたしにそう言い残して調査に向かい
…帰らぬ人となったわ
ひょっとしてバルバロイに喰われたのか…？
それは違うわ
わたしからおじいちゃんの記憶は消えてない
ただ、犠牲者のなかにはバルバロイに
喰われてしまったのではないかとされる人もいる
どういうことだ？
事件の数と被害にあったとされる者の
数が合わないのよ
なんらかの意図をもって記憶を消した者がいる
そう考えるのが自然ね
なるほど
けど、なんでわざわざそんなことをしたんだ？
そうね…あくまでわたしの推測にすぎないけれど
忘れられた悲劇をあえて作ることで
忘れたほうがよかったと思えるくらいの悲劇を
より強く演出しようとしているのかもしれない
それが本当だとしたら
悪趣味ってレベルじゃないな
バルバロイを根絶する
それはすごくだいじなことだけれど
この世界はバルバロイに連なる悪…
ひょっとしたらバルバロイより邪悪な存在がいる
わたしはおじいちゃんの後を継いで
それを追っているの
この学園に来たのも調査のためよ
…密航までしてな
もしかしてキラーズになったのも
いざってときに血の蒐集家と戦うためなのか？
ええ。それも理由のひとつね
…話が逸れてしまったわ
ここで一度状況を整理してみましょう
ロンディニウムの周辺で獣を殺害する事件を
起こしたのは、現場に現れた料理人を名乗る男
男は次にログレスで事件を起こそうとしたが
『儀式』を行うために必要な呪具が足りなかった
呪具がそろうのを待つあいだに
男はログレスに住む子供をさらい
そのあと、人目を避けるためにログレスから逃走
その過程で郵便配達人の男性を殺害した
…仮定は多いけれど
こんなところかしら
郵便配達人は儀式に必要な品を
犯人に届けたんだろうか？
手に入れてしまったのであれば
犯人はすぐにでも犯行に及ぶ恐れがある
たぶん、それは大丈夫
遺体のそばにあった書状に
「トラブルで依頼の品の準備にしばらくかかる」
と書かれていたから
いつの間にそんなことを調べてたんだ…
教えたでしょう？
探偵の心得のひとつよ
今日はこのあたりにしましょう
なにか動きがあったらまた伝えるわ