やはりあの村に
人の気配はなかったわね
ひょっとしたら生存者がいるかもと
期待したんだけどな…
………
どうした？
彼のことを思い出していたの
あなたも知っているでしょう？
バルバロイ憑きの末路を
バルバロイは人に取り憑くことがある
取り憑かれた人間は少しずつ意識や記憶を喰われ
次第に
自分が誰だかわからなくなっていって…
すべての記憶が喰いつくされたとき
人間ではなくなり
同時に
周りの人間からその存在の記憶が忘れ去られる
あの人はわずかに残った記憶に従い
この森や村を守っていたのかもしれない
私たちはそんなあの人を討ってしまった
それは正しいことだったのかしら
- 正しいことだった
- 正しくなかったかも
正しいことだったんじゃないかと
俺は思う
どうして？
存在がすべて失われる前に倒せたから
俺とキミはあの人のことをまだ覚えている
あの人を弔ってやれる
…そうね
俺にはわからない
ひょっとしたら、正しくなかったのかも
完全に喰われてしまうまで
この森で生活させてあげるべきだった？
…私にも、わからない
私、聞いたことがあるの
記憶をなくして一番寂しいのは
それを自覚したときなんですって
なにかがあったはずなのに
誰かがいたはずなのに
自分のなかにぽっかりと空白ができて
２度とそれを埋めることができない
それは…悲しいな
でも…空白ができたと自覚できたなら
まだ幸せかもしれない、なんて考えたりもする
えっ？
それはどういう…
…私には記憶がないの
バルバロイに奪われたのか！？
そうかもしれないし
そうでないかもしれない
昔の私を知っている人は誰もいないから
…私自身も含めて
そっ…
それはおかしいじゃないか
バルバロイに喰われたり聖遺物化して
エクセリアのことを忘れるならわかる
でも、エクセリアは今ここにいるのに
誰もキミのことを知らないって…
そう、おかしいのよ
ねえ、教えてノワール
私は誰なの？
エクセ、リア…
記憶を失う者、他者の記憶から忘れられる者
そして過去の記憶を持たない者
一番寂しいのは誰なのかしらね
ん？花？
エクセリアが供えたのか
これは…勿忘草…？