=== アルフレッド & セリーヌ === --- C --- [アルフレッド] はっ! せいやっ! とりゃ! てい! [セリーヌ] おはようございます、お兄様。 [アルフレッド] おはよう、セリーヌ! [セリーヌ] 今日も鍛錬に精が出ますね。 穴掘りで鍛錬するのは、些か斬新すぎますけれど。 [セリーヌ] それに、そんなに深く掘るなんて。 他の方に迷惑では? [アルフレッド] ははは、セリーヌ。 これは鍛錬ではないのさ。 [アルフレッド] だから、深さもこれでいい… いや、もっと深く掘らねばならない。 [アルフレッド] はっ! てやっ! [セリーヌ] 一体、どういうことですか? [アルフレッド] 朝食を作ってくれている人たちが 水が少し足りないと言っていたのを聞いてね。 [アルフレッド] だからこうして 井戸を掘っているところなんだよ。 [セリーヌ] へっ!? [セリーヌ] あのですね、お兄様。お水が足りないのなら、 近くの川に汲みにいけばいいの! [セリーヌ] わざわざ井戸を掘る人なんていないわ! [アルフレッド] そうか、その手があったか。 [アルフレッド] なら早速、川に向かうことにしよう。 助言をありがとう、セリーヌ。 [セリーヌ] はぁ… 国にいた頃からずっと思っていたけれど… [セリーヌ] お兄様は見た目が蛮族の方が、 中身と合っていると思うわ。 --- B --- [セリーヌ] 王子の皮をかぶった蛮族… それがお兄様です。 [アルフレッド] ははは。 褒めてくれてありがとう、セリーヌ。 [セリーヌ] どこをどう聞けば褒め言葉だと思えるの!? [アルフレッド] 僕が蛮族のようにたくましく、 筋肉たっぷりだということだろう? [アルフレッド] まったく。 身内だからといって褒めすぎだ。 [セリーヌ] 全然、違います! [アルフレッド] ふっ… 落ち着くんだ、セリーヌ。 [アルフレッド] なら、僕が蛮族とはどういう意味なんだい? [セリーヌ] 水が少し足りないという話を聞き、 お兄様は井戸を掘ろうとしたわ。 [アルフレッド] ああ。 そんな愛らしい勘違いもあったね。 [セリーヌ] それだけではありません。 [セリーヌ] 体についた泥を落としたい、 そんな兵士たちの何気ない一言を聞いて… [セリーヌ] お兄様は温泉を掘ろうとされました! [アルフレッド] 温泉、嫌いかい? [セリーヌ] そういう話ではありません。 どうしてすぐに地面を掘ろうとするんですか! [アルフレッド] 筋肉の鍛錬に良いからさ。 [セリーヌ] とにかく! [セリーヌ] お兄様のそういうところが、 蛮族っぽいと言っているの。 [セリーヌ] 別に悪くはないけれど、一国の王子なんだから。 もう少し気をつけてください。 [アルフレッド] わかったよ、セリーヌ。 僕も今後は注意することにしよう。 [アルフレッド] そしてこれからは一日も欠かさず さらに厳しく筋肉鍛錬を続けていくよ。 [アルフレッド] そうすれば見た目も蛮族に近づき 中身と外見を一致させることができるからね。 [アルフレッド] セリーヌも混乱せずにすむというわけだ。 [セリーヌ] もう! そうじゃないんですってば、お兄様! --- A --- [アルフレッド] ………… [セリーヌ] お兄様、そんな所で何をしているんですか? また井戸堀り? それとも鍛錬かしら。 [アルフレッド] …ああ、まあそんなところだよ。 健康な肉体のためにね。 [アルフレッド] …そうだ、もっと鍛えれば… 昔のように…苦しくなることだって… [セリーヌ] …お兄様? [アルフレッド] うっ… くっ、はぁ、はぁ…! [セリーヌ] どうしたの、お兄様!? [アルフレッド] すまない…セリーヌ… ただの発作だ。すぐにおさまる…っ! [セリーヌ] 発作って…幼い頃のご病気が!? [アルフレッド] …最近は、平気だったのだけれどね。 病弱な僕は、いなくなったはずなのに… [セリーヌ] すぐに人を呼んできます。 待っていてください。 [アルフレッド] 駄目だ! [セリーヌ] どうして…!? [アルフレッド] こんな姿…他の誰にも見せられない…! 仲間の皆にも、紋章士にも、神竜様にも! [アルフレッド] 戦えない、ひ弱な王子だと… いつか倒れるかもしれないと思われたくないんだ…! [セリーヌ] みんなは優しいわ。 絶対にそんな風に思ったりしない! [アルフレッド] 僕が嫌なんだ…! 優しいからこそ、気遣わせたくない。 [アルフレッド] せめてみんなの前では、何の陰りもなく… 鍛錬が好きなだけの、元気な王子でいたい。 [アルフレッド] このまま休んでいれば平気だから。 お願いだ、セリーヌ…! [セリーヌ] ……っ。わかりました。 でも本当に危ない時は、制止を聞きませんから。 [アルフレッド] ありがとう… [アルフレッド] セリーヌのような妹を持てたことは、 間違いなく、僕の人生最大の幸福のひとつだね… [セリーヌ] 大げさですね。 そんなことが最大の幸福だなんて。 [アルフレッド] では、セリーヌの一番の幸せは何だい? [セリーヌ] ありません。 [アルフレッド] …? そんなことはないだろう。 素晴らしい仲間に囲まれ、健康な体も持っている。 [セリーヌ] それは確かに幸福です。けれど… 人生最大の幸せだなんて定義が、わたしには不要だわ。 [セリーヌ] だって、そんなものが来たら… [セリーヌ] そのあとの全ての時間を「あの頃は良かった」と 思いながら過ごすだけの存在になるのだもの。 [アルフレッド] ふふ… それ以上の幸せが来るかもしれないのに? [セリーヌ] 来なかった時が怖くて、 そんなもの考えられません。 [セリーヌ] 思えばわたしは幸せを願いつつ…不幸せばかり見ている。 お城から逃げたあの日だってそう。 [セリーヌ] フィレネが落とされたら、お母様が死んでしまったら… お兄様と会えなかったらどうしようと考え続けていた。 [セリーヌ] 今だって…このまま、 お兄様がいなくなったら…どうしようって… [セリーヌ] ………… [アルフレッド] …死ぬわけがないさ。 鍛えればどうにかなるとも。 [セリーヌ] 本当に…頭の中だけは蛮族だわ… 体もそうならいいのに… [アルフレッド] だからそうなるように鍛えているじゃないか。 [アルフレッド] …ご覧、セリーヌ。 珍しい四つ葉の野草だ。 [セリーヌ] ? どこにそんなもの… [アルフレッド] セリーヌの足元に。 小さな幸せを見つけたね。 [セリーヌ] 小さな幸せ…懐かしいわ。 幼い頃はよく、二人で幸せ探しをしていましたね。 [セリーヌ] 昔はわたしの方が上手だったのに、 いつの間に、お兄様に追い抜かれたのかしら… [アルフレッド] …ふう。話していたら落ち着いてきたよ。 小さな幸せがまた一つ、だね。 [セリーヌ] …それを幸せといっていいのかわかりませんが、 元気になったのなら良かったです。 [アルフレッド] 今日のお詫びに…セリーヌには、 僕がたくさんの幸せを見つけて持っていくよ。 [アルフレッド] これからも迷惑をかけるかもしれないけれど… フィレネの王族として、支え合い生きていこう。 [セリーヌ] ええ。お兄様… あなたの思いは、わたしが守ります。 [セリーヌ] 必ず二人揃って、 フィレネに帰りましょうね。 --- S ---