=== アンナ & モーヴ === --- C --- [アンナ] おめでとー! おめでとー! 今日はうれしい記念日ねー! [アンナ] というわけで、記念に何か買ってちょーだい! とくべつにわりびきしてあげる! [モーヴ] ん…? 何の記念日だ? [アンナ] もう、とぼけないでもらえる? 本当はちゃんとわかってるんでしょ? [モーヴ] いや…何のことやら。 [アンナ] もう、しっかりして。 今日はあなたの記念日でしょう! [モーヴ] そう言われてもな… [アンナ] ほら、もうここまで出てるはずよ。 あとひと息! あれよ! ほらあれ! [モーヴ] いや、出てこない。 [アンナ] そう…残念ね。記念日がある人には、 とくべつな果物を売ってあげてるのに。 [モーヴ] ちょっと待て。 なぜお前が俺の記念日を知っている? [アンナ] ま、まあ細かいことはいいじゃない… [モーヴ] わかったぞ。なんでもいいから記念日にこじつけて、 商品を買わせようという魂胆か。 [アンナ] バレちゃったみたいね。 でも、まあいいわ。 [アンナ] 今日はわたしたちが話した記念日ということで、 とくべつにこの果物を売ってあげる。 [アンナ] 半額でどう? 持ってけどろぼー! [モーヴ] まったく、たくましい子だ。 いいだろう。その商魂に負けた。一つくれ。 [アンナ] わーいやったー! まいどありー! --- B --- [モーヴ] アンナ、この間の果物はうまかったぞ。 [アンナ] む。アンナじゃなくてアンナさんよ。 そう呼ばなきゃ用事を聞かないんだから。 [モーヴ] …アンナさん。 今日もあの果物をくれないか。 [アンナ] わかったわ。でもちょっと待って。 お祈りをしてからね。 [モーヴ] 驚いたな。 まさかお前が信心深かったとは。 [アンナ] ううん。宗教とか、そういうんじゃないの。 わたしはただ単に祈ってるだけ。 [モーヴ] ただ単に祈るとは? [アンナ] そうね…例えば…うーん。 まあ、今からお祈りをするから見てて。 [モーヴ] わかった。 [アンナ] ………… [アンナ] どうか、お願いします。 この商品たちが、今日も売れますように… [アンナ] 買ってくれた人たちを笑顔にできますように… 少しでも幸せにできますように… [アンナ] またあの子から買いたいなって 思ってもらえますように… [アンナ] …終わったわ。 わたしのお祈りは、いつもこんな感じよ。 [モーヴ] ………… [アンナ] どうしたの? [モーヴ] お前はたくましい商魂で、金だけが目当てで 売っているものとばかり思っていた。 [モーヴ] それが、こんなに心を込めて 人々のことを祈っていただなんて… [モーヴ] アンナさんを見くびっていた。 恥ずかしい限りだ、本当に申し訳ない。 [アンナ] もう、しんきくさいのやめてよ… さ、あの果物を売ってあげるわ。 --- A --- [アンナ] モーヴ、見ーつけた! 今日も何か買ってちょうだいな! [モーヴ] ………… [アンナ] どうしたの? [モーヴ] …祈っていた。 [アンナ] 祈ってた? 何に? [モーヴ] わからない。 ただ気がついたら、お前と同じように祈っていた。 [モーヴ] きっとこの間のお前に、 影響を受けたのだろうな。 [アンナ] そ、そうなの? [モーヴ] まさか俺にこんな気持ちが芽生えるなんて… [アンナ] …あんまり、祈らない人なの? [モーヴ] そういうわけではない。 俺はかつて、邪竜信徒だったからな。 [モーヴ] 毎日、祈りを捧げることはしていたさ。 だが…中身が希薄だったように思う。 [アンナ] かたちだけ祈ってたってことね。 [モーヴ] そういうことになるな。俺の家は元々、 敬虔な神竜信徒だったんだが… [モーヴ] 流行り病のせいで家族は崩壊することになった。 祈りは無駄だったというわけだ。 [モーヴ] そのせいで俺は…祈りはすれど、 信仰というものがよくわからなくなっていた。 [モーヴ] だが、お前の祈りを見て、感じるものがあった。 祈りとは他者に対する温かい気持ちなんだと。 [アンナ] うん、そう思うわ。 わかってもらえて、うれしい。 [モーヴ] 礼を言うぞ。 このような気持ちを与えてくれて。 [アンナ] やめてよ、みずくさい。 で、何を祈ってたの? [モーヴ] 自分の命に代えても守りたい人がいる。 その人のことを祈った。 [アンナ] へえ…いいわね。わたしもいつか、 そんなふうに祈ってもらえるかしら。 [モーヴ] アンナさんのことも祈ったぞ。 [アンナ] えっ? ほんと? [モーヴ] ああ。お前がずっと健康で、 楽しく商売できるように…とな。 [アンナ] あはは、ありがとう! [アンナ] そうだ、お礼にこれあげる! この果物、気に入ったんでしょ? [モーヴ] ああ、でも「あげる」って… お金は? [アンナ] いらないわ。 今日はかんどー記念日だから。 [アンナ] わたしが、すごーくかんどーした日。 その感謝を込めて、持ってけどろぼーよ! [モーヴ] 悪いな。 [モーヴ] だが、折角の感動記念日だ。 一緒に食べないか? 半分こにしよう。 [アンナ] わーい! やったー! これ高くて、なかなか食べられないの… [モーヴ] そうだと思った。 二人で食べながら、祈りの話でもしよう。 --- S ---