202210690 初心者クエスト 異聞不可分フォーハング 異聞不可分フォーハング 異聞不可分フォーハング 第3部 4 - 異聞不可分フォーハング-3 異聞不可分フォーハング 第3部-3 異聞不可分フォーハング 第3部-3
【ミュルグレス】 あれ、ここって…
舞台の幕が上がる
それは知略、謀略、奸計、奇策で 彩られた裏切りの英雄譚――
…とは、程遠い 楽しいばかりの、ただの日常
【イチイバル?】 ボクはしばらくこの町に残るよ 騒ぎのお詫びはしないとね テヘッ☆
【オルフェウス?】 じゃあ、一緒にバンドするっしょ! 不安にさせちゃった分、 アゲアゲな曲やるし!
【ヒョウハ?】 お、いいな! それならあたしも手伝うぞ! ミュルグレスもやるよなっ
【ミュルグレス?】 えーっ…
【イチイバル?】 この町にいないと、ボクから 報酬のカステラを貰えないよ ニヤリ
【ミュルグレス?】 むむむー… 報酬に上乗せだからね!
【イージス?】 私は一度、フォルカスに報告に行く まあ、すでに全て 知っているかもしれんがな
【ミュルグレス】 これ…これはミュル達だ ミュルの知ってる、ミュルだ
ミュルグレスは先ほどまでと違う 今の自分自身の記憶を突きつけられる
【ミュルグレス】 もやもや…ううん、もっと悪い 胸がズキズキする
「裏側」へ訪れた時の嫌悪感は ミュルグレスの中でさらに強くなる
【ミュルグレス】 …なんで、楽しそうなの
舞台の主役はミュルグレスのはず…
だが、いつか裏切るかもしれない 自分はその役目に相応しくはない とミュルグレスは理解している
【???】 どうしてそんな風に思うんですか?
【ミュルグレス】 !?
突然の声に驚くミュルグレス 声の主は舞台上にはなく、 自らと同じ観客席からのものだった
【???】 裏切ったって裏切られたって 別にいいじゃないですか
【???】 あ、いや、よくはないですね?
そう言って「彼女」は笑う
【ミュルグレス】 アンタ…
いろいろ聞きたいことはある だが、ミュルグレスの口から出たのは
【ミュルグレス】 …アンタの方こそ どうしてそんな風に言えるの?
ここにいる「彼女」がどういった 存在であるかを問うのではなく 「彼女」に抱いた疑問をぶつける
【???】 どうして、ですかね?
【ミュルグレス】 ちょっとぉ~ 聞いてるのはミュルなんだけど?
【???】 あ、そうですよね、すみません ん~どうしてでしょう…?
【???】 あなたと私が 似ているから…かもしれません
【ミュルグレス】 …!
その言葉はいつか 言われたことがある とミュルグレスは感じた
それはどこかのミュルグレスの 運命を左右したかもしれない言葉
【???】 たぶん、なんですけど 私もあなたも誰かに心を 開くということに否定的で…
【???】 なのに、憧れがあって… でも、諦めていて
【???】 だったら、裏切るとか 裏切られるとかどうでもいい
【???】 自分は自分だって そう言えるだけで十分じゃないかな って私は思うんです
【???】 だから、私と似ているあなたも そう思うようにできれば そんなに苦しまなくて済むかなって
【ミュルグレス】 ミュルが、苦しんでる? なんでアンタにそんなことが 言えるのよ、初対面なのに
【???】 …そうですね!? あの、お気を悪くしたのなら ごめんなさい
【???】 何だかあなたは話しやすくて… 背格好が近いからですかね? つい本音を話してしまったみたいです
【ミュルグレス】 …バカみたい
【???】 あ、あはは、そうですね…
【ミュルグレス】 背格好が近いとか 似てるとこがあるとか そんなの結局他人でしかないじゃない
【ミュルグレス】 そんなことで 相手を信用していいの?
【ミュルグレス】 アンタの言ったことを 吹聴して回るかもしれないのよ?
【ミュルグレス】 アンタのその想いを 裏切るかもしれないのよ?
【???】 そんなことでも、大層なことでも 信用信頼の理由って大して 問題にならないんですよね
【???】 もちろん、 裏切られれば傷つきますし、 嫌な気持ちになりますけど…
【???】 それ以上に信頼の先には… あ、ほら
彼女はミュルグレスに 舞台を観るように促す
そこにあったのは――
【ミュルグレス】 あ…
それは、ミュルグレスが かつて初めて出会った、仲間
【ミュルグレス】 …うぅ
物語の中心ではないかもしれない けれど、今この舞台の主役は ミュルグレスだった
裏切られるかも 裏切ってしまうかも その可能性がどうでもよくなるほど
【ミュルグレス】 …ミュルは、楽しかったんだね
その光景は今のミュルグレスには あまりにも眩しく、羨ましい
【ミュルグレス】 契約が、あったから、なんでしょ
舞台上の光景に対して 今の自分はどうだと対比すると ただただ惨めに思えてくる
【ミュルグレス】 ミュルの傍にもあるのに ミュルには手が届かないもの
【ミュルグレス】 神令の繋がりがなければ イチイバルだってミュルに 声を掛けなかったかもしれない
【ミュルグレス】 でも、契約で取り繕わなくても 神令がきっかけだったとしても…っ!
誰かとの繋がりが欲しかった 独りでなんていたくなかった
【ミュルグレス】 だから、仲間ができて嬉しかった
そして、願わくば――
【???】 あれ、にゃんころ やけに素直だね?
いつものように ミュルグレスをからかう声がする
【ミュルグレス】 イチイバル!?
舞台の上ではなく 振り返った先にイチイバルがいた
【ヒョウハ】 へぇ…ミュルグレスも あたし達のこと仲間だって 思ってくれてたんだな!
【ミュルグレス】 ヒョウハまで!? え、これも「裏側」の…?
【イチイバル】 たしかに「裏側」の力だけど このイチイバルさんは正真正銘 本物のイチイバルさんだよ
【イチイバル】 キラン☆
【ヒョウハ】 なんか気付いたら ここにいたっていうか あたしはてっきりもう帰るのかと
【イチイバル】 まぁ、必要があれば引き合わせる というのが「裏側」のやり方 みたいなんだよね
急に騒がしくなった ミュルグレスの「裏側」
いつもなら不機嫌な振りをして 皮肉のひとつでも言うミュルグレス なのだが、今は何故か心地いい
【ミュルグレス】 …仲間は、都合がいいから 一緒にいたってだけのことだし
【ティファレト】 ふふ、ここまで来ても やっぱり素直になれない ミュルグレスもまた愛おしいですね
【ミュルグレス】 げっ
想定外にティファレトまでいたのか とミュルグレスは顔を赤くする
【ミュルグレス】 …あ
とミュルグレスは話を戻す さっきのヒョウハの言葉が気になると
【ミュルグレス】 …ねぇ、ヒョウハはさっき ミュル「も」って言ったわよね?
【ミュルグレス】 アンタはミュルのこと …どう思ってたのよ
【ヒョウハ】 え、いやぁ どうって、なぁイチイバル?
【イチイバル】 そうじゃないっていうなら ハナから声なんて掛けないさ
【ミュルグレス】 っ!!
裏切るかもしれない と信じてもらえなかったなんて それが幻想でしかなかった
自分が誰かに信頼されることはない そう思いこんでいたから信頼されて いないんだということにしていた
【ミュルグレス】 …ミュルはアンタ達のこと 嫌じゃなかったわ
【イチイバル】 はぁ、何を言ってるんだいにゃんころ
【ミュルグレス】 猫じゃない
【ヒョウハ】 そんなの、知ってたしなぁ…
【ミュルグレス】 はぁ!?
【ティファレト】 ふふふふ
【ミュルグレス】 …………
「じゃあさ」 それでも、ミュルグレスは その一言が声にならない
ここに来てどうしてまだ自分は 恐がっているのだろう とミュルグレスは考える
そんなこと、かもしれない 大層なこと、なのかもしれない
もう、理由なんてどうでもいい
【ミュルグレス】 大丈夫よ、ミュル
【ミュルグレス】 ってか、粗暴なとこを ちょっと分けなさいよ、トール
【ヒョウハ】 どうした?
【ミュルグレス】 じゃ、じゃあ…
【ミュルグレス】 友達になってあげても、いいわよ
少しだけ素直に、 そしてまだ素直じゃないミュルグレス
けれど、誰かのことを信じてみよう そして自分のことも信じてあげよう
今の自分がたとえ裏切られたとして 誰かを信じることができたなら きっとどこかの自分も報われる
あり得たかもしれない可能性 じゃなくて、それを今にできるのは 自分しかいないのだ
【ミュルグレス】 使命や利益がなくても ミュルの力を貸してあげる
【ミュルグレス】 トールの力だって 今度は徹底的にミュルが 使いこなしてやるんだから!
ミュルグレスはもう、揺るがない
【ミュルグレス】 …あれ?
緞帳が下りゆく舞台を眺め ミュルグレスは違和感に気付く
【ミュルグレス】 もうひとり、いたわよね
それは誰だったのだろうか
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