202212170 限定クエスト 雪下の騎士流離譚 雪下の騎士流離譚 ストーリークエスト 雪下の騎士流離譚 ストーリークエスト後編 4 - 雪下の騎士流離譚-3 雪下の騎士流離譚 後編-3 雪下の騎士流離譚 後編-3
【アロンダイト】
はぁ、はぁっ、はぁ、くっ、うぅ…
【シタ】
…………
シタの急襲に困惑しながらも いなし続けたアロンダイトだったが 次第に追い詰められていく
【アロンダイト】
理由はわかりませんが
シタは一切手を抜いていない
本気で私を…
【シタ】
えい！
【アロンダイト】
くっ！
【アロンダイト】
これ以上は、まずい…
【シタ】
…わかりませんか？
【アロンダイト】
わ、わかる訳ないでしょう！
突然あなたが私を狙うなんて…
【シタ】
最初に出会った
…いえ、あなたを
見つけた時もそうでした
【シタ】
素人が雪山に入っていくなんて
いくらキル姫であろうと自殺行為です
【アロンダイト】
…？
【シタ】
アロンダイトさんは
自覚がないようですけれど
ただ自虐をして満足してるだけです
【アロンダイト】
何を――
【シタ】
自分は苦痛を受け入れるべきだ
と思っているのではありませんか？
【アロンダイト】
…どう言われようと
私が暴走してからでは遅いのです！
【アロンダイト】
だから、私は
独りでいようとしているだけです
【シタ】
それが間違いだとしても、ですか？
【アロンダイト】
最善最良ではないかもしれません
ですが、私に与えられた選択肢は
孤独しかないのです！
【シタ】
わたし、怒りました
もう許しません！
【アロンダイト】
だから、何を…っ！
シタとアロンダイト 双方の考えが違うことはわかる
だが、アロンダイトにとって シタが何に怒り、何を許さないのか 皆目見当がつかない
【シタ】
あなたは自分自身の怒りを遠ざけ
罰を与えることからも逃げるんですね
【アロンダイト】
罰…
逃げてなんていません！
【シタ】
いいえ、逃げています
受け入れているフリはしてますけど
【アロンダイト】
…っ！
【シタ】
なら、わたしが代わりに
あなたに罰を与えます
どうしてこうなってしまったのか アロンダイトにはやはり理解できない
怒りを避けることの何が悪いのか？ 罰を与えることから逃げているとは？
アロンダイトに襲い掛かる 困惑はシタの攻撃をいなす 剣を鈍らせていく
【アロンダイト】
っ！
アロンダイトは追い込まれ いつしか崖を背にしていた
【シタ】
はぁっ！
【アロンダイト】
ぐっ！
【アロンダイト】
怪我は…大したことはありません
雪がクッションになったんですね
アロンダイトの身体には 無数の擦り傷ができたが どれも致命傷足りえない
だが…
【アロンダイト】
動けない…
精神が不安定な状態で 戦ったことも影響しているのか アロンダイトは酷く消耗していた
【アロンダイト】
シタ…
【シタ】
…………
そんなアロンダイトを追って シタが現れる
【アロンダイト】
…ふ、ふふ
あなたに殺されるのなら
それも悪くはありませんね
【シタ】
またそうやって逃げるんですか
【アロンダイト】
…………
【アロンダイト】
…逃げることの、何が悪いんですか
【シタ】
怒りはとても怖い感情です
恐れ、忌避するのも当然です
【シタ】
アロンダイトさんの場合は
暴走の引き金になるかもしれない
とすればなおさら恐ろしいでしょう
【アロンダイト】
…………う、うぅ
アロンダイトの内では どう表現するのが適切かわからない 感情が渦巻いていた
【シタ】
でも、です
【シタ】
それでも人は、キル姫は
誰だって感情と共に生きているんです
【シタ】
その現実からは、逃げられないんです
【アロンダイト】
なら、どうすればいいんですか…っ！
アロンダイトの悲痛な叫びが 荒れる雪山にこだまする
【シタ】
恐い恐い感情を抱えて
生きるしかないんです
【シタ】
逃げても、苦しい思いが続くだけです
【アロンダイト】
逃げても逃げなくても同じなら
私は誰かを傷付けない方を――
【シタ】
そう言って逃げて逃げて
ずっと孤独でいればいいと？
【アロンダイト】
そうです
私はいままでもそうやって…
【シタ】
そう言う癖に、恩義に厚いなんて
おばかだって、思わないんですか
【アロンダイト】
…………
【シタ】
優しいアロンダイトさんが
孤独でいられるなんて信じていません
【アロンダイト】
シタ…
【シタ】
う、うぅ
アロンダイトさんのばかぁ
シタは泣いていた つい先ほどまで斧を向けていた 相手の為に、泣いていた
【シタ】
自分に対しても誰かに対しても
怒ったっていいんです
叱ってもいいんです
【シタ】
罰だって…適切でほどほどなら
きっと大丈夫なんです、たぶん
【シタ】
その上で、赦せばいいんですから
【アロンダイト】
！
【シタ】
あなたは怒りから目を逸らし
赦す機会すら失おうとしている
ただのおおばか者です！
涙ながらに語るシタの言葉に ショックを受けるアロンダイト
【アロンダイト】
おおばか者、ですか
【シタ】
それでも、アロンダイトさんが
逃げることを、孤独でいることを
選ぶと言うのであれば…
【シタ】
わたしとアロンダイトさんの間に
紡がれた絆を自分勝手で
壊そうと言うのなら…もう知りません
【アロンダイト】
きず、な…
【シタ】
わたしは手を下しません
最後は逃げず
潔くひとりで死ぬべきです
大粒の涙を流しながら去って行くシタ
アロンダイトはその後ろ姿を ただ見送ることしかできない
【アロンダイト】
…………
【アロンダイト？】 「どうすればいいのか」 助けを求めても振られましたね
【アロンダイト？】 やっとの思いで絞り出した声じゃ 誰にも届かないんですよ
ひとりになった途端 幻影がうるさく宣う
【アロンダイト】
私は、独りだ…
そうあるべきと望んだのに どうしてこうも胸が痛むのか
【アロンダイト】
この気持ち、感情は…
ああ、そうですね
その感情は怒りだ
遠ざけ続けたが故に この、視界が赤く染まるような 強い怒りは久しぶりの感覚だ
【アロンダイト】
暴走したとしても
こんな崖の下でうずくまって
動けない私なら問題はないでしょう
【アロンダイト】
は、ははは…
【アロンダイト】
ん…
いつしか意識を失っていた アロンダイトだったが 遠くから感じる地響きに目を覚ます
崖の上、そのさらに遠くから感じる 横たわっていたから気付けた地響き
【アロンダイト】
…雪崩
日が暮れ、強くなった雪は 積雪の許容量を超え雪崩を 引き起こしたようだった
【アロンダイト】
どんどん、揺れが強くなって…
【アロンダイト】
っ！
【アロンダイト？】 よかったですね この規模なら、 麓の村は飲み込まれるでしょうね
【アロンダイト？】 自ら手を下さずに 望み通り綺麗さっぱり すべて断ち切ることができますよ
【アロンダイト】
それは…
それは雪崩によって麓の村が 崩壊することを良しとするということ
自らと共に 終わることを良しとするということ
【アロンダイト】
そう、ですね
すべて無くなるなら孤独でいられる それなら、たしかに良いかもしれない
ゆっくりと目を閉じたアロンダイト
その瞼の裏に浮かぶのは――
【シタ】
おおばか者です！
ハッと、目を開けるアロンダイト
【アロンダイト】
シタ…
【アロンダイト】
く、うぅ…
満身創痍の身体に鞭を打ち アロンダイトは立ち上がる
【アロンダイト】
行か、ないと…
彼女の涙、そして怒りから 目を背けてはいけない気がした
忠義の騎士は、立ち上がった
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