210010020 インテグラルノア編(擬彩されし不可逆世界編) プロローグ 第1話 反転する理想郷-2
【ラグナロク】 これが報告にあった「虚空の穴」ね
【ミネルヴァ】 あまり近づかないようにして下さい 人が吸い込まれたという報告も あります
【ラグナロク】 吸い込まれた… どこかに繋がっているということ?
【ミネルヴァ】 いえ、その可能性は低いですね 吸い込まれた人は…粉々に砕かれて 「穴」に消えたそうですから…
【ラグナロク】 何てこと…
【ミネルヴァ】 「虚空の穴」が発見されるように なったのはつい最近ですけれど
【ミネルヴァ】 数年前から現れていたのではないかと 私は考えています
【ラグナロク】 …何か心当たりがあるの?
【ミネルヴァ】 発生報告の頻度から導き出した 仮説です
【ミネルヴァ】 この「虚空の穴」と呼称されている 現象は発見報告が日増しに増えて います
【ミネルヴァ】 それをグラフ化すると緩やかな 二次曲線を描いているんです
【ラグナロク】 そう… その曲線を遡れば発生し始めた 時期がおおまかに分かるということね
【ミネルヴァ】 あくまで仮説に過ぎませんけれど…
【ラグナロク】 …「虚空の穴」は確認したわ 一旦、教会に戻りましょう
【ミネルヴァ】 そうですね あっ
【ミネルヴァ】 今日は、いつになく風が強いですね
【ラグナロク】 この風、何かを訴えかけているの かもしれない 私達の運命を…
【ミネルヴァ】 えっ?
【ラグナロク】 何でもないわ 運命の歯車なら、 とっくに回り続けているもの
【ミネルヴァ】 この町は活気があって良いですね 戦いの気配もありません
【ラグナロク】 教会の近くだからということも あるのよ “海”に近づけば近づくほど…
【ミネルヴァ】 「領主」達の力が強まって、 争いごとも多くなりますからね
【ミネルヴァ】 今日もエルキュール達は治安維持の ために世界中を飛び回っています…
【ラグナロク】 神々の軛を解き放って、 平和な世界が築かれるはずだったのに どうして争いが続いているの…?
【ラグナロク】 あのときガブリエルが遺した言葉の 意味は、このことを指していた?
【ミネルヴァ】 それでも一歩一歩、歩き続けるしか ありません
【ミネルヴァ】 ラグナロク、私達は常にあなたの 御旗の下にありますよ
【ラグナロク】 ありがとう、ミネルヴァ もちろん、歩みを止めはしないわ!
【ラグナロク】 そうよ どれだけ困難であろうとも、 必ず未来に光明は差す
【ラグナロク】 全ての人々に平穏な日々を そのために、私達は歩み続けて いるのだから!
【ミネルヴァ】 教会が見えてきました やはり、家に帰ってくると ホッとしますね
【住人1】 ラグナロク様にミネルヴァ様 こんにちは
【ラグナロク】 こんにちは 何度も言うけれど、「様」なんて つけなくていいから
【住人1】 何を仰いますか 私達が安心して暮らせるのは 全てラグナロク教会のお陰です
【住人1】 教会直属の姫であられる お二人は敬うべき存在ですよ
【住人2】 まったくです 外縁部では教会の権威が弱まって いるところもあると聞きますけど…
【住人3】 そういうところは領主同士の争いが 絶えないんだろう? 怖い、怖い…
【住人4】 その点、ラグナロク教会のお膝元で あるこの辺りは本当に安全よね
【ミネルヴァ】 そう言っていただけると 励みになります
【住人1】 どうぞ、他の姫様方にも よろしくお伝え下さい
【住人2】 ああ、そうだ リンゴどうぞ
【ラグナロク】 そんな、悪いわ
【住人2】 いえいえ、このくらい 日頃の感謝のしるしにすら なりませんよ
【ミネルヴァ】 ありがとうございます ラグナロク、せっかくですから
【ラグナロク】 そう? それなら…………!?
【ミネルヴァ】 どうしました、ラグナロク?
【ラグナロク】 今の感覚は何…? 上…? 空から何か…?
【ラグナロク】 なっ…
【ラグナロク】 今、空に人影が見えたような…
【ミネルヴァ】 何ですか、この揺れはっ? 空…? 空から…何か落ちてきます!?
【住人1】 何だっ? 何が起きてるんだ!?
【住人2】 大樹様だっ 大樹様から変な音がっ… あああああああ!?
【住人3】 空を見ろ! ばかでかいものが… 落ちてくるぞぉっ!!
【住人4】 キャアアアアアアア! 何なの、あれぇっ…?
【ミネルヴァ】 いけません! 人々が怯えていますっ このままではパニックに…
【ラグナロク】 ユグドラシル…
【ミネルヴァ】 何か言いましたか、ラグナロク?
【ラグナロク】 ユグドラシルよ… 逆さまになったユグドラシルが… 落ちてきてる
【ミネルヴァ】 そんな…まさかっ…
【住人達】 うわああああああああああ…!!
【住人達】 大樹様がっ…逆さまになった 大樹様が、空から落ちてくるぞぉ!
【住人達】 逃げろぉっ…! あんな巨大なものが落ちてきたら、 この世界はおしまいだぁっ…
【ラグナロク】 止まる!
【ミネルヴァ】 えっ…?
【ミネルヴァ】 止まった… 落ちてきたユグドラシルが、 空中で静止しました
【住人5】 助かったのか、俺達…
【住人6】 まるで鏡合わせみたいな光景ね 不思議…
【住人7】 なあ…逆さまになった大樹様の ふもとに…町が見えないか?
【住人8】 本当だ、見えるぞっ… 何だ、あれ…!?
【ミネルヴァ】 あれは…反転世界と 呼ぶべきでしょうか
【ミネルヴァ】 ラグナロク、急いで教会に…! あ!人々の避難を先にした方がっ… ええと…
【ラグナロク】 まだよ… 何かが来るっ
【ミネルヴァ】 えっ? 反転したユグドラシルから …あれは…人?
【???】 再生のときが始まるわ
【ラグナロク】 誰!?
【???】 初めまして 私は“インテグラルキラーズ”の一人 アルマス
【アルマス】 別に覚えなくてもいいわ あなた達は皆、世界再生のために 剪定されるのだから
【ミネルヴァ】 突然現れて、 勝手なことを言わないで下さい!
【アルマス】 勝手なこと? 勝手なことをしてきたのは あなた達の方よ
【アルマス】 お陰で理想郷創造のための計画――
【アルマス】 “擬彩されし不可逆世界” 《インテグラルノア》は 頓挫してしまった
【アルマス】 私達は理想の世界を創造するため 改めて世界を作り替えるの
【ラグナロク】 “擬彩されし不可逆世界”? 聞き覚えのない言葉ね
【アルマス】 あなた達が知らないのは当然よ 全ては神魔契約によって定められ 遂行されていたのだから
【アルマス】 それなのに、まさか管理者が被造物に 敗れて支配権を失うだなんて…
【ミネルヴァ】 管理者…ガブリエル達のことですか?
【アルマス】 そうよ あの者達に管理され、この世界は 永遠の理想郷へと至るはずだった
【アルマス】 異族達による剪定で人口は調節され 美しい箱庭を現出させる計画だった のに…全て失われてしまったの
【ラグナロク】 異族達による剪定? 人口の調節って…何を言っているの
【ミネルヴァ】 まさか…神々は意図的に人々を 異族に捕食させていたというの ですかっ?
【ラグナロク】 異族は… そのために創り出された…?
【アルマス】 そうよ、“擬彩されし不可逆世界” による理想郷には容量が 決められているのだから
【アルマス】 盆栽って知ってる? 美しく、かつ大きくなりすぎないよう 草木を丁寧に整えていくの
【アルマス】 異族は剪定バサミだったのに、 それを失った世界は無様に 膨れ上がってしまった
【アルマス】 そのせいで この世界は崩壊へと進みつつある だから、私達が来たの
【アルマス】 今再び“擬彩されし不可逆世界”を 実行し、天上世界に永遠の理想郷を 現出させるために
【ミネルヴァ】 先程から断続的に揺れています… これもあなたの仕業ですかっ?
【アルマス】 あなた達にも見えているでしょう? 鏡合わせのように反転した世界が
【アルマス】 あちらに世界を作り替えるの そのためにこちらの全てを 一度、崩して移動させているのよ
【ラグナロク】 虚空の穴!? こんなところにまで…
【ミネルヴァ】 …理解しました ラグナロク、虚空の穴は 「失われた箇所」だったんです
【ミネルヴァ】 アルマスというキル姫の言葉が 真実なら…
【ミネルヴァ】 彼女はこの世界を あの反転した世界に移し替えようと しています!
【ミネルヴァ】 よく見ると、あちらの世界はまだ それほど大きくありません 奪われた部分が少ないからです
【ラグナロク】 奪われた部分に「穴」が開いていた ってわけね やってくれるわ
【ラグナロク】 この世界を奪わせはしない すでに奪われた分も、 返してもらう!
【アルマス】 そんなことは不可能よ すでに崩壊は始まっている 誰にも止められない
【アルマス】 私達は選定し、剪定する 新たな世界へ導くに相応しい者達 だけを連れていき
【アルマス】 残りは全て分解、再構築して 新たな世界の礎となってもらうわ
【アルマス】 もちろん、あなた達は全て 礎となる運命よ
【ラグナロク】 運命? それは誰かに押しつけられるもの じゃない
【ラグナロク】 自分達の手で切り拓いていくものよ
【ラグナロク】 アルマスといったわね あなたの計画はここで潰える 世界の崩壊は私が止める!
【ミネルヴァ】 ラグナロク、私も加勢します!
【ラグナロク】 ええ、ともに戦いましょう この御旗に集え!
【アルマス】 …ティルフィングの言っていた通りね 抵抗は想定内 力の差を思い知らせてあげるわ
【ラグナロク】 はあああああああああ!
【アルマス】 その穢れた魂、私が散らしてあげる
【ミネルヴァ】 私の知謀をお使い下さい!
【ラグナロク】 私に任せて
【アルマス】 連携ね… 二人までなら想定内よ
【ミネルヴァ】 では、三人ならどうですか?
【スイハ】 雲をも射抜く、我が一撃!
【ラグナロク】 スイハ! 戻っていたのねっ
【スイハ】 はい…
【スイハ】 たまたま近くにいたから急いで 戻ってきただけなんだけど… それは言わない方がいいかな…
【ミネルヴァ】 三人で包囲しましょう
【アルマス】 もう一人… さ、三人までなら想定内よっ
【ラグナロク】 さっき二人までならって言って なかった?
【アルマス】 あなた達相手なら、二人も三人も 同じようなものなのよ!
【ラグナロク】 その慢心があなたの運命を確定させる ことになるわ!
【ミネルヴァ】 えいっ!
【スイハ】 せいっ!
【アルマス】 くっ… やりにくい…
【ラグナロク】 今よ! 皆の力を一つに!
【アルマス】 くうっ… まだよ…まだ… 私はこんなところで…
【アルマス】 止まるわけにはいかないの!
【ラグナロク】 !?
【アルマス】 ここから絶・反撃…えっ?
【アルマス】 何、この感覚…? ううっ… あああっ…
【アルマス】 あああああああああああああああああ あああああああああああああああああ ああああああああああああ…!
【ラグナロク】 あううっ… これって、私の中の… 共鳴…しているの…?
【ミネルヴァ】 ラグナロク、しっかりして下さい!
【スイハ】 どうしよう… 私もラグナロクに声を掛けたいけど あのキル姫の方も油断できないし…
【ラグナロク】 ううっ…あああああああああああああ あああああああああああああああああ あああああああああ…!
【ラグナロク】 …どうして? 私のバイブスとあなたのキラーズが 共鳴するなんて…
【アルマス】 何をしたの…? 力が…体の自由が利かない… まるで縛られているみたいよ
【ラグナロク】 これは共鳴よ でも、私とあなたが適合するなんて 考えられないのにっ
【アルマス】 共鳴? そんなのはどうでもいいわ 早く…私を解放してっ
【ラグナロク】 私もそうしたいのだけど… さっきから変なのよ バイブスが…うあああっ?
【アルマス】 何っ…? 今…何かが私の中にっ… これ…何なのっ?
【アルマス】 絶・不可解…!
【ラグナロク】 そんな…私の中にあったバイブスが アルマスに移った…? いえ、それだけじゃない…
【ラグナロク】 バイブスを通して…繋がっている 私とアルマスが…こんなこと… 今まで一度もなかった…!
【ラグナロク】 一体、何が起きて――
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