230311211 カシウス・獣刻・ウロボロス 漂うは円環の海
ビーチに、若い女性の 黄色い声が行き交う
今日は久しぶりの休暇
マスターの隊の姫はみんな、 海に飛び込んだり、 泳いだりしてはしゃいでいた
しかし、それを傍観している姫が一人
【カシウス】 ………
カシウスだ
【カシウス】 ………
彼女は飽きることなく、 じっと姫たちの様子を見ている
…と、そこにマスターが現れ、 彼女に尋ねた また、みんなを観察しているの?
【カシウス】 …御館様
人を観察するのが好きだもんね? そう言ったマスターに彼女は答える
【カシウス】 いいえ、違うわ
【カシウス】 みんなじゃなくて…
【カシウス】 海を見ていたの
海? 聞き返すマスター
【カシウス】 ………
だが彼女は何も答えない
海が好きなの? さらなる問い掛けに、 彼女はこう答えた
【カシウス】 この世のすべては円環の因子
【カシウス】 それは海も例外じゃない
【カシウス】 波は永遠に、 押しては返しを繰り返す それはまさに時の円環
【カシウス】 だから見ていて飽きないの
…と、彼女特有の 不思議な答えが返ってきた
【カシウス】 御館様もそう思わない?
…と同意を求められるも、 よくわからないと思った マスターは、
じゃ、じゃあ楽しんでね… とだけ声を掛け、 その場を去ろうとした
【カシウス】 ………
特に気に留める様子もなく、 また海に向き直る彼女
――と、 マスターが去る間際、 こんなことを言った
【カシウス】 それに…
【カシウス】 海はなくならないから
…え? その言葉が妙に 心に引っ掛かったマスター
【カシウス】 ………
それ以上はもう 喋らなくなった彼女の 手を引き、
やっぱり一緒に泳ごう、 仲間の輪に連れて行くのだった
【カシウス】 ………御館様
みんながいる所まで、 彼女を引っ張って来るマスター
【カシウス】 ………
しかし彼女は誰とも遊ぼうとせず、 一人でぼ~っと海面に浮かんでいる
【カシウス】 楽しい… ただ、こうしているのが
【カシウス】 泳ぐでも、潜るでもなく、 ただ浮かんでいるだけ…
【カシウス】 でも、それだけで… わたしは楽しいの
そんなことを考えていた カシウスは波に押され、 どんどん沖に流されてしまった
【カシウス】 ふふっ…
しかし、 それが心地いいと感じる彼女
押しては返すという時の『円環』
その波に身を委ねるのが、 とても心地いいように思える
環状となった ウロボロスを内包している 彼女が好きなもの…
それは知恵の輪などの、 同じく環状のもの
【カシウス】 ……ドーナツ、 食べたいな…
そんなことを考えながら、 波に身を委ね、 どんどん沖に流されていく
【カシウス】 …!
【カシウス】 …え? ……ドーナツ?
太陽の逆光で、 黒い輪が目に飛び込んでくる
だが、 それはドーナツではなく、 マスターが投げた…
【カシウス】 なんだ、浮き輪か
彼女が溺れたと思い、 必死の思いで投げたのだ
【カシウス】 ……
その浮き輪は、彼女を 海という円環の世界から 現実へと引き戻す
心配したよ!! 焦るマスターの言葉を 聞きながら
【カシウス】 せっかく… 心地よかったのに…
と、残念に思うカシウスだった
Next: 230311212