320301212 リサナウト・針枷・クロノス 初めての達成感
リサナウトが来てくれて 本当に良かった…
僅かとなった敵敗残兵の撤退を眺め マスターは呟いた
【リサナウト】 157分ぴったり
初入隊、初戦場にして リサナウトは獅子奮迅の戦いを見せ 見事敵襲を退けたのだ
【リサナウト】 言ったでしょ? この結果は確定事象だって
リサナウトの戦績としては圧勝 彼女には傷一つない
………しかし 隊としては辛勝であった
リサナウトが敵兵を薙ぎ倒している間 他の姫達は勿論 他の敵兵達の相手をしている
しかしどういうわけか リサナウトは敵兵を倒すのに 若干の時間を要していた
手こずっているわけではない 彼女は無傷なのだ
戦場の混乱の中で はっきりとはわからなかったが アレは…
【リサナウト】 凡人のように 時に身を委ねはしないの
【リサナウト】 どれだけ苦労したか聞いてくれる? 誰かに話したいの 私、当主様に話したいわ?
リサナウトの能力は 宿されたクロノスによる時間の操作 それは隊に合流した際に聞いていた
【リサナウト】 一定範囲内の時間を 止めたり遅くしたり…
【リサナウト】 『どんな事柄が起きれば どんな結果がもたらされるのか 全ての影響を前もって把握できる』
【リサナウト】 私はその能力をもって 敵兵に無傷で勝利する時間軸を 確定させる事柄を起こし続けた
【リサナウト】 物事の結末から逆算して 準備と用意を怠らないのが 私の美徳よ
誇らしげに語るリサナウト
…だがその結果として 彼女が時間操作をしながら 戦っている範囲の外側で…
他の姫達は 次々に傷ついていったのだと マスターはリサナウトに苦言を呈す
【リサナウト】 …詳しく聞かせてもらえる?
彼女が目の前の敵に固執している間で 周りの敵は彼女を避け 他の姫を狙い出してしまっていたのだ
戦闘には勝利はしたものの 最終的に被害は拡大していた
【リサナウト】 なるほど…桶は桶屋ね…
リサナウトは周囲の惨状を眺め 深く考え込む
おそらく、 専門のことは専門家に 聞いたほうがよいということだろう
リサナウト個人の実力は 折り紙つきだが 集団で戦うことには慣れていない
【リサナウト】 多くの戦士達を擁する当主様 独り戦ってきた私とは違うわね
驚きなのか、感心なのか 吐息混じりに呟くリサナウト
【リサナウト】 私、自慢じゃないけど 友達っていないの
【リサナウト】 あえてなのよ? 甘んじて受け入れているだけ なんだけれど
全然自慢じゃない しかも甘んじてしまっている 口元まで出そうになるが飲み込む
【リサナウト】 だから………ごめんなさい
先程まで文字通り 頭が高かった彼女だが 一転、ぺこりと頭を下げる
【リサナウト】 周りが見えていなかったのね これまでは 周りを見る必要がなかったから…
【リサナウト】 誰とも交わることがなかった時間軸で 独り試行錯誤しながら生きてきたわ それも悪くなかったの
【リサナウト】 だけど“あれ以来” 仲間との時間というのは少し 羨ましいと考えるようになった
マスターは彼女の話す “あれ以来”に少し気を取られるが リサナウトの言葉に耳を傾けなおす
【リサナウト】 だから私は来たの。当主様
【リサナウト】 誰とでも交わり合った 唯一の時間軸を持つ当主様に 会うために
【リサナウト】 さあ、どんな事柄を起こせば 私と、この隊と、当主様が 満足できる勝利が得られるのかしら
高慢な態度はそのままに それでも勝利のために マスターに助言を求めるリサナウト
【リサナウト】 これもまた物事の結末から逆算した 準備と用意の一環なのよ
なぜか自慢げなリサナウトに マスターは熟考の末、提案する
時を操作することなく 他の姫達と共に一緒に足並みを揃えて 戦いに赴くのはどうか、と
【リサナウト】 …私の力を発揮させずに?
怪訝そうなリサナウト
しかしマスターは言う 時間操作だけが リサナウトの力ではないはずだと
時間を操らないことで リサナウトが傷つくかもしれない 無理をさせるつもりはない。しかし…
マスターは彼女の力を見ていた 一心同体、巨人の戦斧“リサナウト” 準備と用意の周到さ…
時を操り、時を見てきた彼女であれば 今流れているこの時を 見極めることも出来るはず
【リサナウト】 …
その勝機を
【リサナウト】 ………ふふっ
リサナウトは不敵に笑う
【リサナウト】 言ったでしょ 大船に乗ったつもりでいてって
彼女はもう 躓くことはなかった
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