510471211 戦場ヶ原 ひたぎ これで勘弁してあげる
教室から出、後ろ手で扉を閉じ、 一歩進んだところで、背中から、
【戦場ヶ原】 羽川さんと何を 話していたの?
と、声を掛けられた
【戦場ヶ原】 動かないで
僕が振り向いたその瞬間、 狙い澄ましたように、 まるで隙間を通すように、
僕の口腔内に、たっぷりと 伸ばしたカッターナイフの刃を、 戦場ヶ原が通したことも―─知った
【阿良々木】 …………っ!
【戦場ヶ原】 ああ、違うわ―― 『動いてもいいけれど、 とても危険よ』
【戦場ヶ原】 というのが、正しかったわね
【戦場ヶ原】 好奇心というのは 全くゴキブリみたいね――
【戦場ヶ原】 人の触れられたくない 秘密ばかりに、 こぞって寄ってくる
【戦場ヶ原】 鬱陶しくてたまらないわ
【阿良々木】 ……お、おい――
【戦場ヶ原】 何よ 右側が寂しいの? だったらそう言ってくれればいいのに
戦場ヶ原は、僕の右頬肉を、 ホッチキスで挟み込むように―― 綴じる形で、差し込んだのだ
【阿良々木】 か……は
【戦場ヶ原】 全く私も迂闊だったわ
【戦場ヶ原】 まさかあんなところに バナナの皮が落ちているなんて、 思いもしなかったわ
【戦場ヶ原】 気付いているんでしょう? そう、私には――重さがない
【戦場ヶ原】 といっても、 全くないというわけではないのよ
【戦場ヶ原】 ――私の身長・体格だと、 平均体重は四十キロ後半強という ところらしいのだけれど
【戦場ヶ原】 実際の体重は、五キロ
【戦場ヶ原】 中学校を卒業して、 この高校に入る前のことよ
【戦場ヶ原】 一匹の――蟹に出会って 重さを――根こそぎ、 持っていかれたわ
【阿良々木】 …………
【戦場ヶ原】 ああ、別に理解しなくていいのよ これ以上かぎまわられたら すごく迷惑だから、喋っただけだから
【戦場ヶ原】 阿良々木くん 阿良々木くん――ねえ、 阿良々木暦くん
【戦場ヶ原】 さて、私は、あなたに私の秘密を 黙っていてもらうために、 何をすればいいのかしら?
【戦場ヶ原】 私は私のために、何をすべきかしら? 『口が裂けても』喋らないと、 阿良々木くんに誓ってもらうためには
【戦場ヶ原】 ――どうやって 『口を封じれば』いいかしら?
【阿良々木】 ……………
【戦場ヶ原】 とにかく 私が欲しいのは沈黙と無関心だけ
【戦場ヶ原】 沈黙と無関心を 約束してくれるのなら、 二回、頷いて頂戴、阿良々木くん
【戦場ヶ原】 それ以外の動作は停止であれ、 敵対行為と看做して即座に 攻撃に移るわ
僕は、選択の余地なく、頷く 二回、頷いてみせる
【戦場ヶ原】 そう ありがとう
そう言って、まずはカッターナイフを 僕の左頬内側の肉から離し、
ゆっくりと、慎重というよりは 緩慢な動作で、抜く そして、次はホッチキス
【阿良々木】 ……ぎぃっ!? ぐ……い、いい
がじゃこっ、と 信じられないことに
ホッチキスを――戦場ヶ原は 勢いよく、綴じた
【戦場ヶ原】 悲鳴を上げないのね 立派だわ 今回はこれで勘弁してあげる
【阿良々木】 ……お、お前――
【戦場ヶ原】 それじゃ、阿良々木くん、 明日からは、 ちゃんと私のこと、無視してね
【戦場ヶ原】 よろしくさん
【阿良々木】 あ……悪魔みたいな女だ
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