550381211 千石 撫子 羨ましかった
【阿良々木】 あのさ、千石
【千石】 あ、何…… 暦お兄ちゃん
【阿良々木】 お前、本当は、 その鱗の痕―― 痛いんだってな
【阿良々木】 大丈夫なのか?
【千石】 そ、その…… 怒らないで、暦お兄ちゃん
【阿良々木】 ……いや、 責めてるわけじゃないんだが…
【阿良々木】 大丈夫なのかって、思って
【千石】 締め付けられるようで、 痛いけど…… 我慢できないほどじゃないよ
【阿良々木】 ……我慢しなきゃいけないのが、 そもそもおかしいんだよ
【阿良々木】 痛いときは痛いで――いいんだ
【神原】 その通りだぞ
【神原】 縛られるだけならまだしも、
【神原】 縛られっぱなしというのは、 存外、肉体的には きついものだからな
【阿良々木】 縛られることをまだしもと 表現する理由も、暗に 精神的なきつさを除外した理由も、
【阿良々木】 僕にはわからねえよ、 神原
千石はそんなやり取りに、 忍び笑い
気が弱い割に、 案外笑い上戸なのかもしれない
【阿良々木】 ところで、千石
【千石】 何?
【阿良々木】 例の男の子からの告白、 なんで断ったんだ?
【千石】 それは……
【千石】 他に好きな人がいるからだよ
【千石】 ねえ、暦お兄ちゃん 昔のこと、どれくらい、覚えてる?
【阿良々木】 あー……いや、 正直、あんまり
【阿良々木】 僕、記憶力の いいほうじゃないからさ
【千石】 そうなんだ……
千石はあからさまに 残念そうだった
僕は慌てて、話題を 切り替えるように、
【阿良々木】 千石の方こそ
と言った
【阿良々木】 よく、僕のこと、憶えてたな
【千石】 撫子、あんまり、 人と遊ぶこと、なかったから
【千石】 あの頃、放課後まで 一緒に遊ぶような友達って ららちゃんくらいだったし……
【阿良々木】 ららちゃんって 月火ちゃんのこと?
【千石】 ららちゃんとは、 中学で別々に なっちゃったけど……、
【千石】 ららちゃんや、暦お兄ちゃんと 遊んだことは、全部、 大切な、思い出だから
【阿良々木】 そっか――
【千石】 それに撫子、 一人っ子だから
【千石】 お兄ちゃんって―― 羨ましかった
【阿良々木】 ……………
それは、 ないものねだりだと思う
妹のいない人間が 妹を欲しがるようなものだ
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