550381213 千石 撫子 伏し目がち
【千石】 あ……暦お兄ちゃん 待ってたよ
【阿良々木】 よ……よお
【阿良々木】 千石じゃないか 何してんだ、 こんなところで
【千石】 あ、うん…… 暦お兄ちゃん
【千石】 そ、その……
【千石】 改めて…… お礼、と思って
【阿良々木】 ああ
【阿良々木】 それなら、神原の方にこそ、 礼、言っとけよ 神原、もうここ、通ったろ?
【千石】 うん。でも、神原さん、 撫子が声をかける前に、 眼にも止まらない
【千石】 ものすごいスピードで 走り去っていっちゃったから……
【阿良々木】 …………
【阿良々木】 急ぎの用があったんだな、 きっと…
【千石】 でも、どうしよう
【阿良々木】 どうした?
【千石】 神原さんには、 他にも用事があったんだ
【阿良々木】 そうなのか?
【千石】 うん
【阿良々木】 なんなら、それ、 僕が請け負ってやってもいいぞ?
【阿良々木】 神原に礼を 言わなきゃいけないってんなら、 僕もそうだし
【千石】 でも……そんなの、 暦お兄ちゃんに悪いし
【阿良々木】 悪いとか言うなよ 僕はそれくらいのこと、 用事だなんて思わない
【阿良々木】 任せとけって
【千石】 そう…… じゃ、暦お兄ちゃんに 頼もうかな
【千石】 はい
と、千石は、 手に提げていた鞄から、 小さく折りたたまれた
二着の衣装を取り出した
ブルマーとスクール水着だった
【阿良々木】 ……………
【千石】 洗濯して綺麗にしたから、 暦お兄ちゃんから返して もらえるなら、そうして頂戴
【阿良々木】 ああ…
【阿良々木】 じゃ、じゃあ……確かに
【阿良々木】 いよっしゃーー!
【阿良々木】 そうだ、千石―― ちょっと訊きたいことが あるんだけど、いいかな
【千石】 え……何? 訊きたいことって
【阿良々木】 大したことじゃないんだが…… 忍の奴
【千石】 しのぶ?
【阿良々木】 ほら、昨日、蛇切縄を払ったあと、 僕や神原と学習塾跡に戻って、 夜遅いからって
【阿良々木】 そのまま泊まっただろ?
【阿良々木】 そこにいた、 金髪のちっちゃくて可愛い女の子
【阿良々木】 あの子、僕がいないときに、 お前に何か喋ったりした?
【千石】 ううん
【阿良々木】 そうか
【千石】 あの子……吸血鬼なんだよね
【阿良々木】 ああ……まあ、 今は吸血鬼というよりは、 『吸血鬼もどき』って感じだけどな
【千石】 じゃあ、あの子の所為で―― 暦お兄ちゃんは
【阿良々木】 あいつの所為じゃないよ 僕の所為だ
【阿良々木】 それに――怪異に 責任を求めるのは 間違っている
【阿良々木】 あいつらは、ただ単に、 そういう風にそうであるだけ なんだから
【阿良々木】 怪異にはそれにふさわしい 理由がある それだけのことだ
【千石】 うん……そう、だね
【阿良々木】 まあ、お前はもう、余計な ことはあまり考えるなよ
【阿良々木】 普通の生活に戻れば いいだけの話だ
【千石】 うん……
【阿良々木】 まあ、何かあったら 相談に来いよ
【阿良々木】 とはいえ、本当に困ったときは、 僕よりも忍野のところに行った方が 手っ取り早いんだけどな……
【千石】 そ、そうかな……
【阿良々木】 うん
【阿良々木】 まあ、でも、 釘を刺されたところ なんだよな
【阿良々木】 気軽にあいつに 頼ってばかりいるわけにも いかない
【千石】 そう……だね
千石は頷く
その眼には尊敬の光が 宿っている
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