560111211 ヴァナルガンド・聖鎖・サリエル 自身を律する鎖
朝――
食堂に、一人の姫の 穏やかな声が聞こえてきた
【ヴァナルガンド】 みなさ~ん、 ご飯の時間ですよ~ 早く席に着いてくださ~い
彼女はヴァナルガンド・ 聖鎖(ジェイル)・サリエル
マスターの隊に入って、 まだ日の浅いキル姫だ
【ヴァナルガンド】 ほらほら、そんなに 慌てて食べなくていいですよ~ おかわりはたっぷりありますからね~
おっとりとしているが、 世話焼きな性格の彼女
【ヴァナルガンド】 おかわりする人は、 順番を守って ちゃんと並んでくださ~い
霊魂の監視や月の支配が任務の 天使サリエルの影響もあり、
隊の姫たちを管理しようとする 一面もあるが、
根は穏やかで優しいので、 特に不満を漏らす者はいなかった
【ヴァナルガンド】 はい、ごちそうさまでした みなさ~ん、 食器はちゃんと洗いましょうね~
だが、 そんな平穏な日々は 徐々に崩れ出す…
ある日の戦闘にて――
【ヴァナルガンド】 はぁぁぁぁっ!!
【熊】 グロロロロロロッ!!
彼女の『大罪の力』の 象徴である巨大な熊が、 けたたましい咆哮をあげる
【ヴァナルガンド】 いきますわよ!!
巨熊と共に、 次々と敵を倒していく彼女
そんな彼女の檄は、 隊の姫たちにも飛ぶ
【ヴァナルガンド】 主(しゅ)が見ています! 全員、全力で戦いなさい!
普段は温厚な彼女だが、 戦闘になると人が変わったように 厳しい態度を取るヴァナルガンド
元々ギャップのある彼女だったが 最近はその厳しさに、さらに 拍車がかかっていた
【ヴァナルガンド】 そんなことでは、 主の導きの礎にはなれませんよ!
争いの絶えない日々の中で、 彼女はいつの間にか厳しい物言いで 当たるようになっていた
ひどい時には――
【ヴァナルガンド】 主のご意志を果たすには、 全員が同じ未来を見据え、 強くならねばいけないのです
【ヴァナルガンド】 主のご意志を阻む者は… 制裁するしかありません!
――と、 仲間の姫に邪視を掛け、 動けなくして咎めたりもした
なにをしているの!? その現場に出くわし、 ヴァナルガンドを止めるマスター
【ヴァナルガンド】 …!
【ヴァナルガンド】 マ、マスターさん…
【ヴァナルガンド】 …あ…ご…… ごめんなさい……
【ヴァナルガンド】 あ、あの……わたし……
姫たちに目をやる彼女
【ヴァナルガンド】 ………
無言のままバツが悪そうに、 みんなの元を去るのだった
そんな彼女を追いかけ、 声を掛けるマスター
大丈夫?少し気を 張り過ぎてるんじゃない?と
【ヴァナルガンド】 マ、マスターさん…
【ヴァナルガンド】 わたし……
落ち着きを取り戻し、 彼女が己の心のうちを語り出した
【ヴァナルガンド】 確かに少し、 気が張っていたのかも 知れません
【ヴァナルガンド】 それは… マスターさんを 守りたい一心からです
とても嬉しいよ、 と応えるマスター
【ヴァナルガンド】 でも、このままじゃ…
【ヴァナルガンド】 抑えられなくなるかも…
グルルルル… 彼女の傍らで横になっていた熊が 唸り声をあげはじめる
【ヴァナルガンド】 心の中の獣が 暴走しそうで……
【ヴァナルガンド】 とても怖いんです……
心の中の獣……? 彼女の巨大な熊は 今まで暴走したことはなかったが…
【熊】 グルルルル……
残虐?冷酷?非道? そんな感情が瞳の奥に 宿っているのがわかる
【ヴァナルガンド】 ………
息を呑むマスターであった
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