560361212 ネロ ほんの僅かな笑み
【ネロ】 …はぁ
ネロはため息をついて空を見上げ、 自分がいた世界のことを思う
【ネロ】 我は、いつ帰れるのだ? そもそも、帰ることが できるのかもわからぬが…
【ネロ】 あの人間らはどうしているだろうな… 我の与えた力は、どうなったのか…
【ネロ】 …あやつも、同じように 我を思い出しているだろうか? それとも…
【ネロ】 我のことなど、 もう忘れただろうか…
思わず、そうつぶやいたネロに、 あの…ちょっといいかな? と、マスターが声をかける
【ネロ】 …何の用だ?
ネロにそっけなく返されても、 少し話ができればと思って と、マスターはめげずに食いさがる
【ネロ】 …うぬと話すことなど、何もない
そういって立ち去ろうとするネロに、 君が寂しそうで心配なんだ、 と、マスターは声をかける
その声にネロは振り返り、 不思議そうな顔でマスターを見る
【ネロ】 心配…とは、どういう意味だ?
ネロは強いから、自分の心配は 不要かもしれないけど… と、マスターは話を続ける
【ネロ】 そうではない… 「心配」とはどういうものかと 問うておるのだ
ネロの口調は真剣そのもので、 冗談ではないということがわかる
心配っていうのは、困っていないか、 元気かなって相手を思うことだよ と、マスターも真面目に答える
【ネロ】 なるほどのぅ…
ネロは、マスターをじっと観察する マスターは、ネロの識る 人間のなかでも、かなり弱い部類だ
ネロの“聲”が届く者は限られている 強き者、孤独な者、 そして、絶望に包まれた者…
しかし、このマスターは、 そのどれにも値しない なのに、ネロの聲が届いたという
【ネロ】 こやつには、何かがあるかもしれぬ あわよくば、帰る糸口が掴めるかも…
【ネロ】 …しばしの間なら、 うぬの話につきあってもよい さあ、聞くがいい
もしよければ、ため息をついていた 理由を聞かせてもらえるかな と、マスターは直球で聞いてみた
【ネロ】 ふむ…
ネロは、少し考えてから、 独り言のようにつぶやいた
【ネロ】 我はなぜ、ここにいる? いずれは、帰れるのか? …そう考えていた
それは、難しい質問だね、 自分じゃ答えられないな と、マスターは頭をかく
寂しいけど、ネロが望むなら 帰る方法を僕も探してみるよ と、マスター
【ネロ】 なぜ、我が帰ることを うぬが寂しがるのだ?
せっかく出会えたのに、 別れるのは寂しいことじゃない? と、マスターは話す
でも、ネロが帰ることになったら、 無理に引き止めたりしないから 安心してほしい、と続けた
【ネロ】 うぬがどう騒ごうと、 我を止めることなどできぬ
冷静に返すネロを見て、 確かに、その通りだね と、マスターは笑う
【ネロ】 なぜ、笑うのだ?
そうたずねるネロに、 ネロとの会話が面白くて、つい… と、マスターは返す
【ネロ】 我との会話が、面白い…だと? どこがだ? 詳しく言ってみよ
真面目な顔で詰め寄るネロに、 そういうところだよ と、マスターはまた笑ってしまう
【ネロ】 …不愉快だ
ネロは静かに攻撃態勢をとった マスターはネロを怒らせたと思い、 慌てて謝ろうとしたが…
【ネロ】 動くな…
有無を言わさぬ迫力で 制止されるマスター
そして ネロが武器を振りかざし、 マスターは観念して目をつぶった
【異族】 ググッ…
マスターは異族の出現に驚いたが、 ネロは落ち着いた様子で 異族の群れを眺めている
【ネロ】 目障りだ… 消え果てよ
【異族】 グギャッ!!
【ネロ】 はっ
【異族】 グギャギャッ!!
【ネロ】 くっ…
戦闘の音を聞きつけ、 周辺の異族が集まる
異族に囲まれたネロの表情に、 わずかだが疲労の色が見えてきた
【ネロ】 む…
【異族】 グギャッ!グギャギャッ!!
異族は声をあげ、ネロに向けて 一気に襲いかかる
危ないっ! そう叫んで走り出すマスター
マスターは、 ネロを助けたい一心で 異族の輪の中に飛び込んでいた
【ネロ】 なにを…
【異族】 グギャギャッ!?
襲いかかろうとしていた 異族にとっても予想外の行動によって 戦場に一瞬のスキが生まれる
ネロ、今だ! マスターが叫ぶ
【ネロ】 ふっ… なるほど
【ネロ】 うぬが命をかけて 生み出したこの契機… 逃すわけにはいかぬな
【ネロ】 我の力、そこで見ておれ
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