560361214 ネロ 『黒印』クリサイス
あの日から、ネロはたまに マスターと話すようになった
【ネロ】 …やはり、うぬは我の識る人間とは 少し違うようだな
ネロには、人間の仲間や 友達はいなかったの? と、マスターはたずねる
【ネロ】 取り引きをした者なら…いた うぬとは違う意味で、 ほかの者とは違う人間だった
【ネロ】 あやつは、我のそばにいて ともに世界を観察する…はずだった しかし、今はどうしているやら…
やっぱり、元の世界に帰りたい? と、マスターは聞いてみた
【ネロ】 力を求める人間は恐ろしいが、 それでも求められるのは悦ばしかった 我の居場所は、この世界にはない…
そう話すネロの表情は寂しげで、 儚い少女のように見える
マスターは、 前から考えていたんだけど… と、ネロにある提案を持ちかける
僕の隣が、ネロの居場所に なったりはしないかな?と
【ネロ】 …うぬも、他の人間と同様に 我の与える力を欲するのか?
淡々とそう問いかけるネロに、 マスターは、そうじゃない、と答える
ネロの力を借りたいとは思うけど、 自分に力を与えてほしいとは思わない そう話すマスターを、見つめるネロ
【ネロ】 では、うぬは我に何を求める? 異族とやらを殲滅するまで戦うことが うぬの望みか?
ネロには何も求めていない ただ、ネロが心配なだけなんだ と、マスターは言う
【ネロ】 心配…だと? そういえば、以前も言っておったな?
【ネロ】 たしか、困っていないか、元気がない ようだ、などと相手を気づかうこと… そうだったな?
確認するネロに、 そうだよ、覚えててくれたんだね! と、マスターは嬉しさを隠せず微笑む
【ネロ】 ああ… しかし、うぬは何が心配なのだ? 我の力を疑っておるのか?
たしかにネロは強いけど 寂しいっていう気持ちに、ひとりで 立ち向かうのは大変だと思うし…
それに、ネロは純粋すぎるから 変な人に騙されないかも心配なんだ と、マスターは付け足した
【ネロ】 そんなことを言う人間は、 うぬが初めてだ…
ネロは、不思議そうな顔で マスターを見つめた
【ネロ】 この世界に降り立ち、うぬと出会い、 ここにいるのも運命かも知れぬ…
【ネロ】 …うむ、いいだろう いつか元の世界に戻るその時まで、 この運命を受け入れるとしよう
【ネロ】 となれば、以前のような 無謀な策でうぬに死なれては困る
【ネロ】 うぬがいなくなれば、 我の居場所もなくなってしまう… そうであろう?
【ネロ】 つまり… 我が、うぬを… 守ってやらねばならぬな
マスターはネロに、 ありがとう、とても心強いな と、笑顔を返す
【ネロ】 …そうか
それはいつも通りのネロの声だったが マスターの耳には不思議と、 いつもより優しく聞こえた気がした
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