210702070 インテグラルノア編(擬彩されし不可逆世界編) 第7章 夢追い人―デザイア― 第２話 縁-7
【マサムネ】
切っ先は拙者が務める
皆は我がヨルムンガンドの背の上を
猛進せよ！
【兵士達】 ウオオオオオオオオ！！
【エンクウ】 当時、我が家は領土を拡大させて おった 他国を次々に攻め取り…
【エンクウ】 領主たる他の奏官を討ち取って おったのだ
【マサムネ】
我が刃から滴り続く蛇の毒は、
人々の道標となろう
【兵士達】 オオオオオオオオオオオオ！！
【ムラマサ】
姉様！主君！
お帰りなさいませっ
【マサムネ】
ただいま戻った
よく留守を守っておったか、
ムラマサ？
【ムラマサ】
はい！
私…いえ、拙者きちんと言いつけを
守って見張りに立っておりました
【ムラマサ】
ですが…
そろそろ拙者も初陣の誉れを
いただきたく…
【マサムネ】
いや…そなたにはまだ早い
戦場は決して甘いものではないのだ
【ムラマサ】
ううっ…
姉様はいつもそればかりです
【マサムネ】
精進しろ、ムラマサ
【エンクウ】 戦場は甘くない そう…あの頃の拙僧は、その真の 意味を理解していなかった…
【エンクウ】 おやめ下さい、兄者！ この地の奏官は討ち取りました 戦は終わったのです！
【エンクウ】 捕らえた領主の子供達まで 皆殺しにするなど、 人の所業ではありませぬっ
【エンクウの兄】 愚か者！ 遺恨を残せば、長じて我らを討ちに 戻ってくるぞ
【エンクウの兄】 今、ここで根絶やしにすることこそ 我が家のため ひいては天下統一のためなのだ！
【捕らえられた子供達】 ひぐっ… 殺さないで下さいっ… お願いします…
【エンクウ】 この者達に何ができましょう？ どうか、刀を収めてくだされっ
【エンクウの父】 待て 随分と甘えたことを言っておる ようだな
【エンクウ】 父上っ この者達に何の罪がありましょうか 無益な殺生は――
【エンクウの父】 兄の話を聞いていなかったのか？ 無益ではない 我らにとって大切なことだ
【エンクウ】 なっ… 父上…
【エンクウの父】 その甘さ、いずれ命取りとなろう ここで払拭せよ
【エンクウ】 何を…仰るのですか…？
【エンクウの父】 お前が斬れ お前がそこの者達を一人残らず 斬り捨てるのだ
【エンクウ】 俺がっ…！？ そのような無慈悲なことは…
【エンクウの父】 出来ぬと言うのなら、 今ここで儂がお前を斬る
【エンクウの兄】 その役目、俺が担いましょう 兄として弟の不明を糾さねば なりますまい
【エンクウ】 父上…！ 兄者…！ 正気なのですかっ…
【エンクウの父】 正気も正気 大真面目よ さあ、刀を抜け
【エンクウの兄】 斬るか 斬られるか 二つに一つだ
【エンクウ】 俺は…
【マサムネ】
お待ち下さい
この者達を斬る役目、
拙者にお任せいただきたく
【エンクウ】 マサムネ…！？ お前、何を言っている！？
【マサムネ】
主君の刀として、
その役目を全うするまで
どうか、お命じ下さい
【エンクウの父】 ふむ よくできたキル姫ではないかっ こやつには勿体ないほどだ
【エンクウの兄】 よし 不甲斐ない弟に代わって、 マサムネが斬れ
【マサムネ】
…主君
ご命令を
【エンクウ】 …………
【マサムネ】
主君！
【エンクウ】 分かった… マサムネ、下がれ
【マサムネ】
主君、今、何とっ…？
【エンクウ】 下がれ、マサムネ …俺が斬る
【マサムネ】
主君、それではっ…！
【子供達】 ひぃぃぃぃっ… イヤだよぉ…助けて下さいっ…
【エンクウの父】 我が家のため、見事、斬ってみせよ
【エンクウ】 ……………………
【エンクウ】 エエエエエエエエイ！！
【エンクウ】 拙僧は斬った 年端もいかぬ少年少女を… この手で…
【エンクウ】 その夜、拙僧は出家を決意した 耐えられなかったのだ 罪の重さに…
【エンクウ】 父や兄の言う通り、 拙僧は甘かったのであろう
【エンクウ】 そういうことだ… マサムネ、そなたもどこへなりと 行くがよい
【エンクウ】 もはや隠遁した坊主につき合う 道理はない
【マサムネ】
…それが主君のご意志ならば
【マサムネ】
一つだけ、お願い致したき議が
ございます
【エンクウ】 何だ？ こんな坊主にできることならば、 何なりと申せ
【マサムネ】
ムラマサは、このまま主君のお側に
仕えさせて下さい
【マサムネ】
あの者はきっと、
拙者よりも良い武士になります故
【エンクウ】 姉心か… 承知した
【マサムネ】
では…しばしの暇をいただきます
【エンクウ】 以来、マサムネとは会っておらぬ いずこにて如何にしておるのかも 分からぬ
【エンクウ】 拙僧は俗世との繋がりを断ち、 父とも兄とも縁を絶った 自らを「縁」の「空虚」な者…
【エンクウ】 縁空と名乗ってただ読経三昧の日々を 送っておったのだ ところが、ある日…
【エンクウ】 父と兄の訃報が届いた
【エンクウ】 我が家は勢力拡大の勢いに乗って 中心部に攻め入り そこで手酷く敗北を喫したそうだ
【エンクウ】 父も兄も退くことを良しとせず、 最後は中心部にいるキル姫の一人…
【エンクウ】 シェキナーの矢によって 倒れたという
【エンクウ】 さすがに拙僧も家のことが気になり、 久々に山を下りて我が家に向かった
【エンクウ】 そこで拙僧が見たのは、 地獄であった
【エンクウ】 父の権勢によってまとまっていた 者達が、父とその跡目である兄を 失ったことで再び争うようになり…
【エンクウ】 そのせいで人々は悲惨な目に遭って おったのだ
【エンクウ】 拙僧は、そのとき初めて… 自らの意思で「天下統一」を望む ようになった
【エンクウ】 無論、父や兄のようなやり方では いずれ同じ轍を踏むであろう
【エンクウ】 故に探した 拙僧なりの「天下統一」の道を
【エンクウ】 万巻の書を開き、我が家の由来も 改めて調べ直したのだ
【エンクウ】 そして皮肉な結論に至った
【エンクウ】 天下統一を成すのなら、 三国の頃の霊装支配のような 画期的な力が必要だと
【エンクウ】 拙僧一人が和平を説いても 誰も一顧だにせぬ
【エンクウ】 だが、圧倒的な力を有する者の 言葉は、悲しきことだが、 皆、よく聞くのだ
【エンクウ】 拙僧は新たな力を探し求めた 同じ志を持つ者を探し求めた
【エンクウ】 そうして…そなた達と、 セブンスキラーズの可能性に 辿り着いたのだ
Next: 210702080