320021213 アイムール・D. plug・モート 死蝕の業火
繰り返される闘争の記憶の中に ただいっぺんの光が見えた そんな気がした
マスターが、もっと 綺麗なものを教えようと 足を踏み出したときだった
【アイムール】 …っ! マスター、足元に花が! 踏んでしまいます…っ!
アイムールに呼び止められて マスターは慌てて足を止める
【アイムール】 …今、私は何を?
アイムールは頭を抱える 戦場では足元に花があろうが 迷わずに踏み抜いてきたというのに
【アイムール】 …マスター もしかしたら
【アイムール】 これまで踏み抜いてきた花も、 キレイ…だったのかもしれません もう届かない過去のお話ですが…
寂しそうに、ぽつりと告白する
じゃあ確認しにいこう、と マスターはアイムールの手を引いて くるりと行き先を変えた
【アイムール】 ま、マスター? どこに連れて行くおつもりですか
戸惑うアイムールを引き連れて マスターはぐんぐん歩を進める
アイムールはその手に、 今度はどこかすがるように ついていくのだった
到着したのは、見渡すかぎりの花畑 ざあ、とさざめく風が 色とりどりの花を揺らしていた
【アイムール】 ダメ…です、マスター やはり、何も変わっていません 私には色あせた景色に見えます
そんなアイムールへ、 マスターはひとつひとつ 色を教えていった
アイムールはじっと花を見つめながら マスターの言葉を繰り返していく
【アイムール】 青は、深い海の底の涼しげな景色 その一部分を切り取ったかのような とても心落ち着く色…
【アイムール】 黄色は蜂蜜と同じ色で 明るくて、元気をもらえる色…
【アイムール】 赤は赤熱する鉄と同じ色で 今まさに大きなものが変わりゆく そんな、強い力を秘めた、色…
【アイムール】 …マスターの心の中にあるキレイは 私にも、キレイだと思えます ですがもう…私には届かない世界です
マスターは優しい口調で伝える 過去は確かに変えられないけど、 今広がる光景はきっと綺麗だよ、と
【アイムール】 今、広がる光景… 手を伸ばせば…見えるでしょうか 私にも、キレイが…
変わりたいと思う今の君なら、 きっと見えるはずだよ と、マスターは力強く答えてみせる
【アイムール】 変わる…
【アイムール】 そうです…変わりたい、です 私は変わりたいと、 そう思っています…!
その言葉を口にした瞬間、 アイムールは心の暗闇に、 小さな灯火がともったように感じた
マスターは彼女に微笑みかける 想像してみるんだ、 君が見たい景色を…
【アイムール】 …私が見たい景色、 それは…
アイムールは目を瞑り、 マスターからの言葉を ぐっと、飲み込んだように見えた
【アイムール】 …… なんという…ことでしょうか
【アイムール】 …ああ、マスター 見えます 見えるのです!
アイムールは目を瞑っていた そのまま、ぎゅっと手を握り締める
【アイムール】 …素晴らしいです キレイです キレイな花畑が、見えるのです
嬉しそうにその様子を眺めながら、 マスターは彼女に声をかける そのまま目を開けてごらん? と
アイムールはその言葉に頷くと、 恐る恐る目を開いていく
【アイムール】 ……っ
彼女の瞳には、色とりどりの花畑 その表情は、驚きと感動に 包まれていく
マスターは一輪の花を アイムールに差し出す
彼女はその花を ぎこちない指先で摘んで 愛おしそうに眺めた
先ほど彼女の心にともった 小さな灯火は、次第に明るく 闇を照らす炎となっていく
【アイムール】 ああ、不思議な感覚ですね まるで、心の中にあったはずの穴が…
【アイムール】 なんというか、薄れていくような 満たされていくような そんな、不思議な感覚がします
その感覚が綺麗と思うことなのだと マスターは教える
【アイムール】 このような素敵な感覚を マスターは持っていたのですね
【アイムール】 マスターと同じ景色が見たい… 同じ感覚を感じたいと、 先ほど、私はそう願いました
【アイムール】 それが叶い、とても嬉しく思います
【アイムール】 心が花で満たされて 心が潤いを覚えたかのよう… 今までにはない、力を感じるのです
心の中に宿った感情の炎が、 彼女に『死蝕の業火』 を授けていた
【アイムール】 本当に素敵です 世界はこんなにも 綺麗な色でできていたのですね
【アイムール】 とても綺麗で、色が、たくさんで… …その…胸がいっぱいで うまく、言語化できないのですが
【アイムール】 感謝します、マスター
そう言って彼女は ぎこちなさはあるものの、 初めて笑顔を見せてくれた
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