50342212 メラ 「氷極」アポストロフィ
メラにマスターが拘束された… その情報は、またたく間に 隊全体へ伝わった
すぐさま助けようと 小屋の中に突入するキル姫達 しかし、メラは怯まず対峙する
【メラ】 …はぁ、どうしてみんな そんなに頑張ろうとするの
【メラ】 この人は怠惰に堕ちている最中なの 邪魔しないであげてよ
【メラ】 面倒なことやめて、 楽しく好き勝手に 過ごそうとしてる人かもしれないよ?
【メラ】 それを邪魔する権利が、 あなたたちにあるの?
その言葉に怒りを露わにして キル姫達はそれぞれの武具を構えて にじり寄ろうとしたが…
【メラ】 もしこれ以上、近づこうとするなら あなた達の大切なマスターの命は…
ないよ、とメラが口にする寸前 「僕は大丈夫だから!」 と大声をあげるマスター
これは考えあってのことだから 君たちは周りの哨戒をして欲しい… と、次々に指示を出していく
キル姫達は半信半疑ながらも マスターの指示を受けて 小屋から出て行った
【メラ】 あたしと敵対しても勝てないから とりあえず退かせた…ってところ?
【メラ】 でも、いつまでそうやって 頑張ろうと思えるかな
悠然と語るメラに それはどうかな と強がるマスター
【メラ】 あなたはそう言うけど、 あの子たちは そうじゃないかもしれないよ?
【メラ】 あなたの知らないところで 心が折れちゃうかもしれない …でも、あなたにはどうしようもない
【メラ】 身動きが取れないんだし、 そのままでいるしかないけどね
そう言うメラの言葉に、 彼女達は負けないよ、 と静かにマスターは否定する
その縛られた手元では メラに悟られないよう 縄に爪を立て続けていた…
マスターがメラに 拘束されている間も 魔獣の襲撃が数回あった
だが、マスターの指示しておいた 陣形が効果を発揮して 特に被害もなく退けられる
【メラ】 …また、撃退成功したんだ もう、あなたが何もしなくても この場は安泰じゃない?
【メラ】 それで、怠惰に過ごす感覚はどう? 誰かのために頑張るよりも ずっと気楽だよね
【メラ】 何があっても動けないし、 外のことも分からない
【メラ】 外のことを気にして苦しむなら、 諦めたほうが楽になれると思うよ
メラの語りを聞いても マスターは黙っていた
【メラ】 …前なら言い返してきてたのに もう、沈黙するしかできないんだ
【メラ】 喋るのも面倒になっちゃった? やっぱり、人間の意思なんて 所詮、その程度だよね…
その言葉に、マスターは 首を振って否定した
【メラ】 それなら、どういうつもりで 黙ってたの?
その時、ひとりのキル姫が 小屋に入ってきた
曰く、森を抜けてすぐの町が 魔獣に襲撃されている、と そこは当初の目的とは違う町だ
そちらに寄って救援してもいいが 進行が遅れている現状、その間に 目的地の町が壊滅する恐れもある
マスターの決断が必要な状況に キル姫達は浮足立っていた
【メラ】 …もうこの人には 関係ない話だよ
【メラ】 この人は怠惰を知ったんだよ それでも頑張って誰かを 助けようなんて…
うん、十分怠惰を味わったよ そう言ってマスターは 突然、立ち上がってみせた
【メラ】 え、どうして… 解けないように きつく結んでいたはずなのに…
古いロープを使ったんだね こつこつ爪で傷つけていたら 割とすぐ切れたよ、とマスター
【メラ】 それならどうして 切れた時に抜け出さなかったの…
その問いにマスターは微笑む
簡単だよ メラがおすすめする怠惰を 味わっていたのさ、と
【メラ】 …………
続けてマスターは 怠惰に過ごすのもいいけど、 やるべきことがある、と告げた
【メラ】 だから、あたしに手を貸せって? 結局、従わせるんだ?
そんなつもりはないよ、と マスターは否定する
ただ、戦いが終わるまで ここにいてほしい、とも 告げた
【メラ】 はぁ? …意味が分からない
終わった後で、ちゃんと君の ことを知りたいんだ 怠惰仲間としてね
【メラ】 なにそれ …あたしと一緒に怠惰を味わいたい なんて、本気で言ってるの?
【メラ】 というか、そもそも そこまでするなんて 全然、怠惰じゃないし…
その言葉にマスターは頷く そして、君の絶望ときちんと 向き合いたいと言葉を続けた
【メラ】 意味がわからない それであたしのことを 分かったつもり?
すぐに理解するのは難しいと思う でも知りたいんだ、と マスターはメラを見つめる
君と一緒に過ごす怠惰も もっと味わってみたいしね、と 笑うマスター
【メラ】 へんなの… こんな人間がいるなんて…
メラはまじまじと マスターを見つめると やがて、溜息混じりに言う
【メラ】 まあ、いいよ…
【メラ】 あなたは、他の人と違うみたいだし 少しだけ力を貸してあげる
その言葉にマスターは微笑んだ 力を貸してくれてありがとう すぐに出発しよう!
マスターの一声で 隊はすぐに小屋を発った 面倒くさそうに歩くメラと共に…
【メラ】 はっ…!
その後 隊はそれぞれの町へ駆け付け 魔獣を退けていった
メラの活躍もあって 被害は最小限で済んだ
助けられた町の人々は メラに感謝の言葉を口々に 告げるが…
【メラ】 …感謝なんていらない
彼女は冷たく言い捨てると 町の外へ去ってしまう マスターは慌ててその背を追った
夜の草原に佇むメラ マスターが声をかけると 虚ろな表情でこちらを向いた
【メラ】 …追いかけてきたんだ
感謝されても嬉しくないの と、マスターは問う
【メラ】 どれだけ人を救っても どれだけの感謝をもらっても ただ虚しさが募るだけだから…
なら、手伝ってくれたお礼は 敢えて言わないことにするよ と、マスター
【メラ】 面白いこと言うね そういうところ、嫌いじゃないよ
これからも自分達と一緒に ついてきてくれないかな、と
【メラ】 まぁ、いいよ
そうだよな…と肩を落としかけ 今なんて!と訊き返すマスター
【メラ】 あなたたちと行動を共にするのも 悪くなさそうだし
【メラ】 面倒くさいけど、 しばらくは付き合ってあげる
【メラ】 それじゃ、これからよろしくね
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