510071212 アロンダイト 終局を煽情する憤然の狂剣
あれから数日後――
隊を後にしたアロンダイト
【アロンダイト】 ………
一人で佇んでいると、
【アロンダイト】 …!
【アロンダイト】 ……マスター
マスターが、先日、 盗賊に負わされた腕の傷を 押さえながら、やって来た
【アロンダイト】 どうして、ここに…?
きみを迎えに来たんだ と、マスター
【アロンダイト】 ………お断りします
【アロンダイト】 私の中から、 破壊の衝動がなくなることは ありません
【アロンダイト】 こんな私が、 あなたの隊にいると 必ず迷惑をかけてしまいますから
【アロンダイト】 …もう…… 誰にも迷惑は掛けたくないのです
【アロンダイト】 あんな絶望は、もう二度と……
マスターは尋ねる きみの過去になにがあったの? 教えてくれないかな?
【アロンダイト】 …またあなたは そんな目を 私に向けるのですね
アロンダイトが、 己の過去を語り始めた
【アロンダイト】 私には、その昔…… 別のマスターがいました
【アロンダイト】 出会った時、彼はまだ8歳…
【アロンダイト】 かなり年下のマスターでした
【アロンダイト】 私も最初は、 まるで保護者のような目で そのマスターの面倒を見ていました
【アロンダイト】 彼は私を姉のように慕ってくれ、 私もいつしか本当の弟のように 思うようになりました
【アロンダイト】 私達は…常に一緒に行動し、 苦楽を共にするようになっていました
【アロンダイト】 それは私にとって、 とても幸福な時間だったのです
【アロンダイト】 でも……
【アロンダイト】 20年ほどが経った日、 他の奏官からギルドの結成を 持ち掛けられた私達は…
【アロンダイト】 生活が安定すると考え、 その提案に同意しました
【アロンダイト】 ……それがいけなかった
【アロンダイト】 ギルドが大きくなるにつれ、 私達が邪魔になった ギルドメンバーは…
【アロンダイト】 私達を裏切り……
【アロンダイト】 あろうことか…… 私のマスターを殺したのです…!
【アロンダイト】 ……私は…
【アロンダイト】 許せなかった…!
【アロンダイト】 マスターは心の清い人だった…! ずっと…
【アロンダイト】 力無き、 いい人達を救いたいと 戦っていたのに…!
【アロンダイト】 それなのに、 人間どもの醜い欲望に!! 命を消されてしまったのです!!
【アロンダイト】 そこからです…… 私の中にどうしようもできない 破壊と殺戮の衝動が生まれたのは…
【アロンダイト】 大切な人を奪われた私は… 世界に絶望しました…
【アロンダイト】 それに…
【アロンダイト】 我々キル姫という存在自体が、 人々の争いの原因になると 考えるようにもなりました
【アロンダイト】 現にこの前も、盗賊は 私達がキル姫だと分かった途端、 殺そうとしました
【アロンダイト】 キル姫は…争いの種でしかない
【アロンダイト】 そして、 争いが生まれようとする度…
【アロンダイト】 辛く悲しい過去の記憶が 蘇ってしまう…
【アロンダイト】 私が襲い掛かったあの日 あなたがキル姫を庇ったときの あの目が…
【アロンダイト】 マスターにとても似ていたんです それで私の中の怒りの感情が 消えてしまった…
【アロンダイト】 あなたといると マスターを思い出してしまいます
【アロンダイト】 だから、これ以上… あなたと近づきたくはないのです
そう語る彼女に、マスターが 傷を押さえていた手を 放して見せた
そこには、完璧な治療が
【アロンダイト】 それは、隊の姫達が…?
マスターは答える これは村の人達が、一生懸命 治療してくれたんだよ、と
【アロンダイト】 村人が…?
彼らは、キル姫だと知っても、 遠ざけたりはしなかった
むしろ友好的に、 僕の怪我を治してくれたんだ
【アロンダイト】 ……なぜ?
マスターは言う 君が触れた人々は、 世界のほんの一部だ
一部分を見ただけで、 全てをイヤにならないで欲しい
世の中には、 確かに悪い人間もいるけど、 いい人もいっぱいいる
僕も…そんな力無き、 いい人達を守るために 戦いたいと思ってるんだ…と
【アロンダイト】 ………
マスターの腕に巻かれた包帯を見て、 驚く彼女
【アロンダイト】 ………マスター
これまでは、 衝動のままに戦っていた彼女
【アロンダイト】 あなたの想い… 胸に受け止めました
しかし、 心境の変化により得た能力で 怒りを裡に収めた彼女は、
殺すことなく 敵を退けるようになった
その後、マスターと 語り合っているアロンダイト
【アロンダイト】 あなたの言う通りかも知れません
【アロンダイト】 私が見てきた世界はほんの一部…
【アロンダイト】 本当に、世界には 絶望しかないのか… この目で確かめたくなりました
マスターを見つめる彼女
その瞳は、 困惑と希望の光が 入り混じっているようだった
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