510461212 ミュルグレス・神令・トール なんの得にもならないけれど
あれから少しの時が経過した
【ミュルグレス】 ………
今やミュルグレスの周りには 誰もいない
傍若無人な振舞いをしているうちに 隊の姫たちは彼女から 離れていってしまったのだ
【ミュルグレス】 …あ
【ミュルグレス】 だんちょー
だがマスターだけは、 彼女の側から離れなかった
【ミュルグレス】 ねぇ、だんちょー これ、食べる?
とガムを勧めてくれる彼女 良かった、落ち込んでるわけじゃ ないのか…と指で取った瞬間、
パチン!
痛た~~~っ!! イタズラ用の仕掛けが マスターの指を挟んだ
【ミュルグレス】 あはははは! 騙された~!
周りに誰もいなくなったが、 マスターだけは彼女を信じては 騙される日々を送っていた
【ミュルグレス】 ねぇ、だんちょー
そんなマスターに尋ねる彼女
【ミュルグレス】 だんちょーってさ…
【ミュルグレス】 どうしてそこまで ミュルのこと、信用するの?
【ミュルグレス】 誰もミュルの言うこと、 信用しないのに
彼女の目を見つめ、 マスターは真っすぐに答える
それは…僕のことを 信じて欲しいからね、と
【ミュルグレス】 …!
【ミュルグレス】 ……信じて欲しいから、 信じるの……?
【ミュルグレス】 ………なんか
【ミュルグレス】 ……バカみたい
どこか寂し気な目を見せ、 彼女は去っていった
それからまた、数日が過ぎた――
【ミュルグレス】 ………
隊から完全に 孤立してしまった彼女は、 一人森の中にいた
【ミュルグレス】 ………
木の枝に寝転がり空を見つめ、 なにかを考えている様子
それは…僕のことを 信じて欲しいからね
マスターの言葉が、 脳裏にこびりついて 離れないようだった
【ミュルグレス】 …バカみたい
【ミュルグレス】 人を信じて… なんの得になんのよ……
――と、その時
【ミュルグレス】 …!
【ミュルグレス】 あれは…魔獣!
遠方に、町に攻め込もうと している魔獣の軍団を発見
【ミュルグレス】 すごい数… あんなの相手するのは しんどそ~
【ミュルグレス】 …!
【ミュルグレス】 そうだ、魔獣が着く前に、 隊や町の人たちに知らせれば 報酬がもらえるかも
【ミュルグレス】 そうなれば、 ミュルひとりで 面倒なことをしなくてすむし
名案が浮かんだと、 ピョンと木の枝から 飛び降りる彼女
【ミュルグレス】 しょうがないなー
【ミュルグレス】 ミュルが助けてあげないと、 みんな、なんもできないんだから
嬉々として 町に駆けて行くのだった
周辺の地理に詳しいこともあり、 魔獣より先回りして町に到着する彼女
【ミュルグレス】 みんな~!大変!! 大変だよ~~~!!
町の人が、 彼女に目を向ける
【ミュルグレス】 魔獣だよ~! 魔獣が現れたよ~~~っ!!
だが…
またか… といった感じで誰一人 まともに取り合ってくれない
【ミュルグレス】 な、なんで無視するの…? ほんとだってば! 本当に魔獣が来てるんだって!!
必死に訴えかけるも、 相手にしてくれる者はいない
【ミュルグレス】 なんなのよ、も~~~う! せっかく教えてあげてるのに~~!!
短気なトールを 霊装支配された影響で、 癇癪を起こす彼女
【ミュルグレス】 だんちょー、魔獣が来たよ! やっつけに行かないと!
【ミュルグレス】 …あれ、いない?
【ミュルグレス】 だんちょーだけじゃない 姫たちもみんないない…?
【ミュルグレス】 …
【ミュルグレス】 …いいわよ、もう! ミュル一人でやるから!
【ミュルグレス】 その代わり…
【ミュルグレス】 もしミュル一人で 魔獣をやっつけたら、 報酬たっぷりよこしなさいよ!
――と、 魔獣が向かっているであろう方角へ 走ってゆくミュルグレス
【ミュルグレス】 あんたたちなんか… ミュルひとりで充分なんだから!!
【ミュルグレス】 あの地形を利用すれば 一網打尽にできるはず よしっ!
瞬時に立てた作戦を 実行に移そうとする ミュルグレス
しかし、ひとりでは 作戦のための準備も間に合わず 敵に囲まれてしまう
【ミュルグレス】 はぁ…はぁ…!
作戦がうまくいかず ひとりで戦い続ける
だが圧倒的な数の前に、 次第に追い込まれていく
【ミュルグレス】 うぅ…いたっ!
攻撃を受け始め、 意識が薄れていく彼女
【ミュルグレス】 はぁ…はぁ……
【ミュルグレス】 ミュル… なんでこんなことしてるんだろ…? こんな…
【ミュルグレス】 なんの得にもならないことを…
…僕のことを 信じて欲しいからね ふと、マスターの言葉がよぎる
【ミュルグレス】 ミュルからみんなを信じてあげてたら みんなもミュルに 力を貸してくれたのかな…
【ミュルグレス】 うっ!
ダメージを受け、 膝から崩れ落ちる
【ミュルグレス】 はは… まずったなぁ……
満身創痍の体に、 とどめの一撃が 振り下ろされようとしたそのとき
【ミュルグレス】 ……!
どこからともなく飛来した武器が 魔物を弾き飛ばし ミュルグレスを守った
【ミュルグレス】 ア、アンタたち……
ミュルグレスが 武器の飛んできた方向に 目をやると
そこにはマスターと 隊の姫たちがいた
【ミュルグレス】 なんで…?
行くわよぉぉぉっ!! と、魔獣と戦闘を開始する姫たち
大丈夫!? マスターがミュルグレスに駆け寄る
【ミュルグレス】 さっき、だんちょーのことを 呼びに行ってあげたのに なんでいなかったのよ
【ミュルグレス】 結局だんちょーも ミュルのことを裏切ったんだと 思っちゃったじゃない
【ミュルグレス】 だんちょーのばかっ!
ミュルグレスの目に涙が浮かぶ
【ミュルグレス】 信じた人に裏切られて 悲しい思いをするくらいなら
【ミュルグレス】 誰かを信じたりなんてしないように 最初から みんなに嫌われちゃえばいい
【ミュルグレス】 ミュルはね ずっとそう考えてたの
マスターは ミュルグレスの小さな手を ぎゅっと握りしめ
さっきは 留守にしちゃってゴメンね、 と謝る
君のために、“これ”を 買いに行ってたんだ、と 彼女に見せる
【ミュルグレス】 …!
【ミュルグレス】 カステラ…
それは町で評判のカステラだった これ、食べたがってたでしょ? とマスター
【ミュルグレス】 ミュルが言ったこと… 覚えてくれてたんだ
【ミュルグレス】 ……ったく
【ミュルグレス】 どこまでお人好しなのよ
【ミュルグレス】 バイブスなんてもの、 信じてなかったけど… ううん、バイブスなんて関係なく
【ミュルグレス】 この人なら信用できる!!
稲妻がほとばしる剣
【ミュルグレス】 そんな美味しそうなカステラを 報酬として見せられちゃったら ミュルも本気出すしかないよね!
【ミュルグレス】 はぁぁぁぁぁぁっ!!
そして覚醒した強大なる力で、 敵を一掃するのだった
勝利の後、 カフェで語り合う ミュルグレスとマスター
【ミュルグレス】 さっきのカステラは 別腹としてさ
【ミュルグレス】 あれだけの大勝利だもん 報酬はたっぷりもらうからね
【ミュルグレス】 でも、まぁ…
【ミュルグレス】 勝てたのは、 だんちょーと みんなのおかげかな
照れ臭そうに言う彼女に、 マスターは尋ねる これからは…みんなを信じてくれる?
【ミュルグレス】 ………
マスターから目を逸らし 照れくさそうにこう答える
【ミュルグレス】 見返りも期待できないのに 人助けなんてバカみたい
【ミュルグレス】 いつ足元をすくわれるか わかんないのに、
【ミュルグレス】 人を信用することなんて できるわけないじゃない
【ミュルグレス】 …そうでしょ? ……そうって言いなさいよ
言葉とは裏腹に、 その瞳には穏やかな 優しさが宿っていた
Next: 510461213