60301211 ツヴァイ 寄らないで
【ツヴァイ】 …………
ツヴァイは今日も口を閉ざしている 口だけではない、心もだろうか
異なる世界から現れてからというもの、 変わらないツヴァイの様子に マスターは困惑していた
【ツヴァイ】 …クロ、おいで
クロと呼ばれる獣影とだけ 言葉を交わすツヴァイ
なにを語りかけても、 ツヴァイの心は開かない こちらが食事を用意しても…
【ツヴァイ】 …わたし、いらない 毒かもしれない、わからないものは 食べたくないから
元いた世界で、この子は どんなひどい目に遭ってきたのだろう そんな想像を巡らせてしまう
【ツヴァイ】 ねえ、クロ… どうせならあの人も 一緒ならよかったのにね
それでも、全てが閉ざされていた 訳ではないようだった あの人のことを口にするときだけは…
ほんの少しだけ温かな表情を見せる それだけが、マスターにとって 救いであったのは確かである
その温かな笑みに惹かれ、 ふとツヴァイに話しかけてみる マスター…しかし…
【ツヴァイ】 っ…!!
先程までの笑みは消え、 警戒心をむき出しにするツヴァイ
【ツヴァイ】 …寄らないで
危害を加えるつもりはないよ そう優しい声で告げるマスター
【ツヴァイ】 そうやって甘い言葉で近寄って 痛いことや辛いこと、 恥ずかしいことで
【ツヴァイ】 わたしを満たそうとするんでしょ!?
そんなつもりはない それをわかってもらうべく、 マスターはツヴァイに手を差し伸べる
ツヴァイの身体に手が届こうとした 瞬間、その手はツヴァイによって 勢いよく跳ね除けられた
すると――
【ツヴァイ】 げろろっ、ろろろろォォッ…!! おえええエェェエェェ…っ!! けへっ、えぼぼぉっ…!
ツヴァイの口から大量の吐しゃ物が 流れ落ちた
【ツヴァイ】 ハァ…ッ…ハァ…ッ…!! いや、やめて… もう叩かないで…
沈黙が部屋の中を支配する その沈黙を切り裂いたのは、 部屋に駆け込んできた他の姫たち
街中に、異族が現れたようだ 被害を出さないためにも 戦わなければならない
【ツヴァイ】 戦う…戦うの…? なら…行かなきゃ…
「戦う」という言葉に反応し、 部屋を飛び出していくツヴァイ
――どうにか、しなければ 床にぶちまけられた吐瀉しゃ物を 見ながらマスターは思う
次の瞬間マスターは、 ツヴァイの後を全力で追いかけていた
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